最新記事

人道支援

ウクライナ避難民だけ優遇?──難民支援の「ダブルスタンダード」の不都合な現実

Less Money for the Rest

2022年12月28日(水)13時01分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)

データ活用型の貧困対策に取り組む国際組織デベロップメント・イニシアティブズの最近の報告書によれば、12~21年に発生した危機に絡む支援要請の平均充足率は47%。だが、ロシアのウクライナ侵攻以降は30%に低下している。

活動家らは対ウクライナ支援意欲を歓迎するものの、難民・移民をめぐる二重基準が露呈していると指摘する。

厳しい移民政策をとるデンマークは、シリア難民に故国の「安全地帯」への帰還を促し、広く批判されている。ところが、ウクライナ避難民の受け入れに対しては、政策を即座に転換した。

豊かな北欧が後ろ向き

ウクライナ戦争の影響で原油価格が高騰するなか、北欧の産油国ノルウェーは石油輸出で記録的収益を得ている。

援助団体ノルウェー・チャーチエイドの政治・社会担当責任者代理、グドルン・ベルティヌセンの話では、石油輸出による収益は21年には8300億クローネ(約11兆4600億円)だったが、22年は1兆5000億クローネ(約20兆7000億円)に達した可能性がある。

それでも23年度予算案で当初、ODA(政府開発援助)拠出額の国民総所得(GNI)比を現行の1%から0.75%に引き下げる方針を掲げ、人道団体の怒りを買った。スウェーデンでも、支援に消極的な政府に市民社会は激怒している。

「世界で最も裕福で平和な国の1つで、経済・人道開発の国際ランキングで常に最上位層のスウェーデンが、国際援助の『余裕がない』というなら、どこに希望があるのか」。コンコードの政策顧問、アサ・トマソンはそう嘆く。

スウェーデンでは22年10月に新たな連立政権が発足。右派で反移民的なスウェーデン民主党が閣外協力する新政権は既に、難民支援を10億ドル以上削減している。

予算減少や使途の切り替えの影響を完全に把握するのは難しい。どの活動の資金がウクライナ避難民支援に回されるのか、各国政府は明らかにしていないからだ。それでも、大勢の人の未来が危うくなっていることは間違いない。

トマソンによれば、援助削減が引き起こしかねない影響について、コンコードの参加団体は国連機関に尋ねた結果を報告書にまとめた。

中核的支援が30%減少すれば「200万人が安全な水へのアクセスを失い、児童200万人が学校に行く権利を奪われ、10代の若者400万人が性教育や避妊具へのアクセスをなくす」だろうと指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中