最新記事

人道支援

ウクライナ避難民だけ優遇?──難民支援の「ダブルスタンダード」の不都合な現実

Less Money for the Rest

2022年12月28日(水)13時01分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)
避難民

ロシア軍が侵攻したウクライナ東部ドネツク州で、退避するための列車を待つ市民(22年6月) GLEB GARANICHーREUTERS

<ウクライナ難民を積極的に受け入れる欧州が、紛争地域や貧困国向けのODAを削減。そのツケは他地域の難民だけでなく、難民受け入れに反対する極右勢力も払う理由とは?>

ウクライナで続く戦争を受け、欧州の主要援助国はウクライナからの避難民の支援に大きく力を傾けている。

だが中には、ただでさえ減額傾向にある対外援助予算の一部を避難民支援に回す国もあるという。その結果、世界各地で食料や基本的医療、教育を先進国の支援に頼る膨大な数の人々が犠牲になっている──活動家や人道団体の間では、そんな声が上がる。

最も貧しく、最も紛争が多発する地域で援助を切実に必要とする人は計3億人以上。その半数を子供が占める。援助削減と併せて、気候変動の影響やウクライナ戦争に起因する物価高騰で、弱者の生活環境はさらに悪化している。

「ウクライナ避難民の支援によって、数多くの難民や各地で危機に見舞われている人々にツケが回る事態を防ぐ。その点が極めて重要だ」。難民支援団体の国際救済委員会(IRC)は、電子メールで筆者にそう指摘した。

だが欧州各国では、台頭する極右政党(アラブ地域やアフリカからの移民に反対する一方、宗教・人種的親和性からウクライナ避難民を歓迎しているとみられる)が、地域内の政治的思惑に強い影響を与えるようになっている。

こうした新たな政治的圧力にさらされるなか、多くの国の政府が対外援助を削り、国内向け支出を増額している。長らく援助国の筆頭格だったデンマークやスウェーデン、イギリスも例外ではない。

デンマークでは、シリア支援に約束した5000万クローネ(約9億7000万円)、マリに援助するはずだった7000万クローネ(約13億6000万円)、バングラデシュ向けだった1億クローネ(約19億5000万円)がウクライナ人支援に回されているとされる。

一方、スウェーデンの81の市民社会組織が構成するプラットフォーム「コンコード・スウェーデン」によると、同国は入国した避難民のため、対外援助から45億クローナ(約590億円)以上を振り向けた。

2022年にシリアやエチオピア、ベネズエラが手にした支援は要請額の半分に満たない。ソマリアやアフガニスタンでは人口の半数が飢餓の可能性に直面するが、人権団体は援助獲得に苦闘している。

一方、ウクライナによる巨額の支援要請は記録的短期間で実現している。ソマリアは22年の支援要請額の68%を受け取るのに1年近くかかったが、ウクライナは同水準の人道支援を6週間で達成した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中