ポルトガルの事例が示した、80年後の世界の山火事と環境破壊の教訓とは?
A Harbinger of the Future
巨大化した山火事はもはや人間の手には負えない(写真は今年9月のカリフォルニア州南部) LUIS SINCOーLOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES
<猛烈な山火事からの復興を目指すポルトガルの人々を描いた、ディカプリオ製作参加のドキュメンタリー『悪魔の息吹』。気候変動がもたらす地獄と温暖化との向き合い方とは>
記録破りの猛暑が2年続いたから、今は誰もが気候の危機を肌で感じている。アメリカだけでも、2015年以降に20万平方キロ以上の森林が山火事で失われた。
国連環境計画(UNEP)によれば、2100年までに猛烈な山火事の発生件数が世界全体で5割も増えるという。気温が上がり、強い日照りで乾燥が進むせいだ。
山火事は木も人も殺す。米MSNBCで11月に放映されたドキュメンタリー『悪魔の息吹(From Devilʼs Breath)』を見れば分かる(米ピーコックで配信中)。製作陣にレオナルド・ディカプリオやハリ・グレース、クロエ・リーランドが名を連ね、オーランド・ボン・アインシーデルが監督した本作は、ヨーロッパ史上最大級の山火事に遭いながらも、自然の回復力を信じて懸命に立ち上がろうとするポルトガルの人々の姿を描いている。
記録的な暑さが続いた2017年の6月17日、ポルトガルの田舎町ペドローガン・グランデで4つの山火事が発生した。死者66人、負傷者253人を出す大惨事となり、ポルトガル史上最悪の山火事とされる(この年には同国全土で山火事が起き、5000平方キロ近い土地が焼けた)。
「すさまじい惨状だったに違いない」と、監督のボン・アインシーデルは本誌に語った。「あれから何年もたつのに、まだあちこちに地獄の業火の痕跡が残っていた」
撮影班は地域住民の姿にも驚いた。「みんな意気消沈しているだろうと思っていたが、違った」と、監督は言う。「仲間の死を無駄にすまいと、みんなが支え合ってこの集団トラウマを癒やし、二度と同じ悲劇が起こらないよう懸命に努力していた」
気候変動の専門家として制作に関わったトム・クラウザーも、人々の回復力に感銘を受けた。「希望がみなぎっていた」と、クラウザーは言う。「とにかく自分たちの町の自然を回復させよう。そうすれば少しは、世界中で生物多様性の喪失や気候変動と闘う人々の役に立てる。みんな、そう考えていた」
火が広がったのは、オーストラリア原産のユーカリの木が多かったせいだと考えられている。ユーカリは成長が速いが、燃えやすい。
そこで地域住民は、焦土と化した土地に在来種のコルクガシやオークを新しく植えることにした。これらの木は周囲の空気や土壌を冷やし、土中の水分を保持することが知られている。昔ながらの多様な生態系に戻せば、森は火災に強くなり、人間の居住地を守る壁にもなり得るのだ。
「ぺドローガン・グランデの近くには古い森があり、周囲のユーカリ林が燃えたときも、そこだけは延焼を免れた」と、ボン・アインシーデルは言う。