ポルトガルの事例が示した、80年後の世界の山火事と環境破壊の教訓とは?
A Harbinger of the Future
「土地がやられてしまっても、適切な種類の在来種が育つようにしてやれば莫大な利益が期待できる。生物多様性を回復し、二酸化炭素を吸収し、より肥沃な土地に戻せる」
ポルトガルの教訓に学ぶ
ただし、この変化は一夜にして実現するものではないとクラウザーは言う。「在来種の多様な生態系を取り戻せば土中に水分を蓄えられ、火災に強い森になる。しかし大事なのは、それが地元の人々にとって経済的に持続可能な選択肢となるかどうかだ。在来種のコルクガシやオークは成長が遅いから、お金になるまでには時間がかかる」
『悪魔の息吹』が描いたのはポルトガルの片田舎の事例だが、そこから得られる教訓には普遍性がある。
「この猛烈な山火事で焼かれたのはポルトガルの片田舎だが、それを招いたのは気候の危機で、それは地球上の全ての人に影響する」と、ボン・アインシーデルは言う。「アメリカやオーストラリア、ブラジルやトルコ、ロシア。多くの国で山火事は起きていて、その悲惨さは誰もが身に染みているはずだ」
「私たちが撮ったのは、ポルトガルのどこかで起きた火災ではない。世界中のどこで起きてもおかしくない事態、このままだと避け難い未来の前触れだ」
そのとおり。小さな火花が1つあれば森は燃える。太陽の熱だけでも火種になる。干ばつと高温が続けば乾き切った木は燃えやすくなり、炎は時速20キロ以上で燃え広がる。アメリカだけでも、今年は6万1390件(11月現在)の山火事が発生し、3万平方キロ以上の土地が焼けたとされる。
「世界中で起きている山火事に気候変動が大きく関わっているのは間違いない」。英エディンバラ大学の防災専門家ロリー・ハデンはかつて本誌にそう語った。「アメリカでもそうで、(山火事との)闘いはますます困難なものになるだろう」。
実際、山火事が大規模化したせいで消火作業の経費は膨らんでおり、アメリカでは昨年、約44億ドルもの資金が投じられた。
放置されたたき火など、山火事に関しては人間の不注意も大きな危険因子となる。米政府の推定では、アメリカの公有地で発生する山火事の80%が人為的なものだ。
気温の上昇と山火事の発生件数の増加は続く。もう打つ手はないと思えることもあるだろう。でも、ここで負けてはいけないと、ボン・アインシーデルは強調する。
「人類は今、多くの課題に直面しているが、諦めてはいけない。立ち止まらず、前を向かねばならない。私たちの映画に登場する人たちのたくましさを見てくれ。あの生きざまが、みんなの心に響くことを願っている」