「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線

THE ANXIETY EPIDEMIC

2022年12月23日(金)14時47分
ダン・ハーリー(サイエンスライター)

今年3月、ギルマンは慢性疼痛や不眠症、不安症、鬱病を抱える186人を対象としたランダム化臨床試験に関する論文を発表した。この研究では、3分の2の被験者には最初に、残り3分の1の人々には12週間後に医療用大麻の購入許可証を配布した。最初に購入許可証を受け取った人々は「痛みのひどさや不安や鬱の症状に大きな変化はなかったと答えた」とギルマンは言う(不眠症の症状は軽減されたという)。

また、最初から大麻を使った人々は、購入許可証の支給を遅らせたグループと比べて「大麻使用障害」を3倍近く引き起こしやすかった。これは生活に支障を来しているのに自力では大麻の使用を止めたり減らしたりできない状態を指す。中でも不安や鬱に悩む人にその傾向が顕著だったという。

一般には安定したリラックス効果が高く評価されている大麻だが、ギルマンはアルコールと同じようなものだと考えている。「毎晩ワインをグラス1杯飲めば、不安は軽減されるかもしれない。でも、だからといってワインは治療薬ではない」

助けを必要としている人々が、まず頼るべきはかかりつけ医だとパインらは言う。また、不安症の研究・治療に力を入れている大学病院も全米に数多くある。だが困ったことに、ストレスフルなニュース報道に触れることが多いこの時代、不安や鬱の症状で受診を望む人は年齢を問わず非常に増えている。

おかげで例えばペンシルベニア大学不安症治療研究センターでは、まず診断までに4~6週間、治療開始までにさらに4~6週間待たされる。「パンデミックの前もなかなか治療にたどり着けなかったが、状況はさらに悪くなっている」と、同センターのリリー・ブラウン所長は言う。

一方で、最善の治療を施しても効果がほとんど出ない患者も一定数おり、理由の解明が研究者にとって大きな課題となっている。NIMHの不安症研究プログラムの責任者、アレクサンダー・タルコフスキーによれば、完全な寛解に達するのは成人患者の2人に1人にすぎない。

「効果が出ない人がなぜこんなにたくさんいるのだろうと、私はずっと考えてきた。うちのプログラムに研究助成金を申請してくる多くの研究者も同じ疑問を持っている。いま言えるのは、われわれはこの問題に取り組んでいるということだ」とタルコフスキーは言う。

それでも治療はたいていの場合、患者の助けになっている。冒頭のランデロスは言う。「娘は治ったわけではないけれど、2年前と比べたら明らかにいい状態だ」。今年と去年の夏には子供向けの演劇ワークショップに通うこともできた。「確かに彼女は電話で話すことも友達の家に泊まりに行くこともないけれど、ほかに素晴らしいことをいろいろとやっている。驚くくらいの進歩を見せている」と主治医のマリンは言う。

不安症の治療も同じくらい、急速な進歩を遂げつつあると言えるかもしれない。

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中