最新記事

教育

奨学金制度は「教育の機会均等」の実現には寄与している

2022年12月21日(水)11時40分
舞田敏彦(教育社会学者)
奨学金

大学生の奨学金利用率は所得水準と相関している nirat/iStock.

<問題なのは、給付型の割合がまだまだ少なく、依然として貸与型が主流なこと>

教育基本法第4条は、教育の機会均等について定めており、「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない」と規定している。

奨学金は、奨学の措置の代表的なものだ。2020年度から、従来の貸与型に加え、返済する必要のない給付型も創設されている。住民税非課税世帯の子弟が自宅外から大学に通学する場合、月額7万6000円が給付される。それ以外の世帯でも年収400万未満の世帯は3分の2、年収400~460万の世帯は3分の1の支援が受けられる。消費税の増税分を財源とするもので、これまでにない画期的な奨学制度だ。

今では奨学金を利用する学生が増えていて、大学生のおよそ半数が貸与ないしは給付の奨学金を使っている(日本学生支援機構『学生生活調査』2020年度)。家庭環境で分けると、年収が低い家庭では利用率が高い。<図1>は大学生を5つの階層に分け、奨学金の利用率をグラフにしたものだ。

data221221-chart01.png

奨学金を使っている学生の割合は、年収300万未満の家庭では83.9%、300~400万円台では72.9%と高くなっている。

縦軸では5つの年収階層の構成比を表現しているが、年収700~900万円台と1000万以上の階層で全学生の半分が占められ、年収300万円未満の家庭は1割でしかない。だがこの分布は、大学生の子がいる年代の世帯の年収分布と大差ない。大学生の家庭環境の偏りは大きくはない(有力大学は別)。年収が低い家庭の学生は奨学金を使っているためで、奨学金は「教育の機会均等」の実現に寄与している。下の2つの階層では、給付型の奨学金をもらっている学生も多いだろう。

2021年度の統計によると、給付型奨学金を使っている大学生は23万2000人ほどで全学生に占める割合は8.8%。この数値には地域差があり、東京都内の大学生の中では6.7%だが、沖縄県の大学生では21.0%にもなる。沖縄県の次に高いのは青森県の15.4%、その次は宮崎県の14.7%だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中