最新記事

金融犯罪

暗号資産の「寵児」逮捕は口封じだった?陰で胸を撫で下ろした人々

Sam Bankman-Fried's Arrest May Have Blocked Incriminating FTX Testimony

2022年12月14日(水)19時50分
キャサリン・ファン

12月13日、バハマで逮捕されたFTX創業者、バンクマン・フリード  Dante Carrer-REUTERS

<破綻したFTXの創業者が予定していた公聴会での証言が、緊急逮捕でふいになった。変わり者できっと議会で自白すると思われていたバンクマン・フリードの口を封じたのは誰なのか>

不透明融資が明るみに出て経営破綻したFTXトレーディングの創業者サム・バンクマン・フリード(30)が12月12日に突然逮捕されたことで、その翌日に予定されていた米議会公聴会での彼の証言は中止された。法律の専門家によれば、バンクマン・フリードが証言していれば、暗号資産業界にとっても、かつて暗号資産のカリスマといわれたこの男にとっても、非常に都合の悪いことになっていたかもしれない。

FTXは暗号資産取引所として業界最大手の1つだったが、ほぼ一夜にして崩壊した。暗号資産版「リーマンショック」と呼ぶ人もいる。

バンクマン・フリードは13日に米下院金融サービス委員会にオンラインで参加し、FTXの経営破綻に関して証言を行うことになっていた。ところがその前日に、米検察当局に詐欺とマネーロンダリングの容疑で刑事告発され、本拠地にしているバハマで逮捕されたのだ。


13日の公聴会は予定通り行われたが、共和党議員からはバンクマン・フリードの不在について、連邦当局が意図的に彼の証言を封じたのではないかと非難めいた声が聞かれた。バンクマン・フリードは民主党の大口献金者でもあったからだ。

金融サービス委員会の委員長を務める進歩的なマキシン・ウォーターズ下院議員も、「この逮捕のタイミングは、国民が宣誓中のバンクマン・フリードから直接話を聞く機会を奪っている」と、13日の展開に憤慨した。

検察の早まった決断か

今回の逮捕は、アメリカの法執行機関ではなくバハマの当局によって行われたが、法律の専門家は、予定されていたバンクマン・フリードの証言が終わるまで待つべきだったという。

元連邦検事のマイケル・マコーリフ州検事は本誌に対し、バンクマン・フリードが宣誓のもとで証言していれば、連邦政府当局は、司法省が調査している問題について貴重な情報を得ることができたかもしれないと語った。

また、ネアマ・ラーマニ元連邦検事は、バンクマン・フリードは法的助言を無視することで知られているため、下院委員会で犯罪的行為を自白していた可能性が高く、その後に逮捕したほうが罪を認める可能性が高かっただろうと本誌に語った。

「犯罪の容疑で捜査されそうになっているとき、普通の人なら議会での証言など拒否するだろう。だが、バンクマン・フリードは普通の人間ではない。彼は自分の考えに従うだけでなく、法的な助言には逆らう」と、ラーマニは言う。「証言は多くの理由で役に立っただろう。検察はバンクマン・フリードの逮捕を待つべきだった」

逮捕のタイミングは米連邦検事局が指揮していたのだから、バンクマン・フリードの議会証言の前に逮捕を決断する「唯一の正当な理由」は、国外逃亡の懸念だけだ、とラーマニは言う。「そうでなければ、検察は早まった」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザでハマスへの異例の抗議デモ、パレスチナ住民数百

ワールド

米、グリーンランド訪問計画変更 デンマークは「歓迎

ビジネス

英CPI、2月は前年比+2.8%と予想以上に鈍化 

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中