「ドイツ帝国は存続中」貴族の末裔「ハインリッヒ13世」クーデター未遂事件、ドイツの悪しき伝統とは?
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連行される「ハインリヒ13世」。計画では国家元首になるはずだった TILMAN BLASSHOFERーREUTERS TV
<議員や裁判官、軍にも信奉者がいる「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」は有名な極右の陰謀論勢力。Qアノンとは何が異なるのか?>
12月7日、ドイツの検察当局は政府転覆を企てたとして25人を逮捕、衝撃の事実が浮かび上がった。容疑者らはドイツの古い貴族ロイス家の末裔「ハインリヒ13世」を国家元首にし、右翼の元議員を司法相にすることを計画していたという。
全国で電力網を遮断して政府に対する国民の反感をあおり、その上で連邦議会の議員らを拉致することももくろんでいた。容疑者には元警官や元軍人らが含まれ、多くが重武装していた。
事件の詳細は国外でも大々的に報じられ、アメリカの極右陰謀論勢力Qアノンの関与が取り沙汰されている。だが実は容疑者グループの背後にあるのはドイツではよく知られている別の陰謀論的イデオロギー「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」だ。
「ライヒスビュルガー」運動の根底にあるのは、第2次大戦後のドイツ連邦共和国は法的な主権国ではなく、戦勝国である連合国が自分たちの利益追求のために設立したにすぎないという思想だ。ドイツ帝国は今なお存在する、ドイツ基本法(憲法)は長く国内で認められていようとも本当の憲法ではないのだから、というのである。
彼らは独自のパスポートや通貨を発行。さまざまな反政府組織と交流を持ち、反ワクチン、反移民、親ロシアの右翼過激派勢力の連合体である点が非常に危険だ。
極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」という形で連邦議会にもメンバーを送り込んでいる。現在AfDは連邦議会の議席の10%超を占め、世論調査での支持率はそれを上回る。東部の一部の州議会選では、アンゲラ・メルケル前首相のキリスト教民主同盟(CDU)と首位争いを繰り広げている。
連邦議会や軍にも信奉者
現に今回の逮捕者にはAfDのビルギット・マルザックウィンケマンも含まれていた。元連邦議員で現在はベルリンの裁判官。アメリカのQアノン信奉者、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員のドイツ版といったところだ。
2009~21年にドイツ連邦議員だった筆者は、反移民で陰謀論を信奉するマルザックウィンケマンの台頭ぶりに危惧を覚えた。クーデター計画では彼女が司法相になる予定だった。
こうした状況を陰謀論者のたわごとと軽く受け流すべきではない。マルコ・ブッシュマン司法相は「酔っぱらってあらぬことを口走るやじ馬は多い」が、今回は「暴力行為を企てていた」と信じるに足る根拠があるとツイートした。