最新記事

米ロ関係

ロシアの「最悪の武器商人」が釈放、人質交換は「危険すぎる悪手」

A Bad Deal

2022年12月12日(月)13時15分
マイケル・ブラウン
ビクトル・ボウト

「死の商人」ボウト(バンコク、2010年10月) DAMIR SAGOLJーREUTERS

<女子バスケ選手と交換で釈放されたのは「最悪の武器商人」、アメリカはこの取引が安全保障へ与える障害を考えるべきだった>

ロシアで有罪判決を受けて収監されていた米女子プロバスケットボール選手ブリトニー・グライナーと、武器密輸に関与した罪でアメリカで収監されていたロシアの武器商人ビクトル・ボウトの「人質」交換が成立し、それぞれ12月8日に釈放された。

ロシアには元米海兵隊員のポール・ウィーランもスパイ容疑で有罪判決を受けて収監されており、今夏にジョー・バイデン米大統領が2人とボウトの交換を持ちかけたと報じられていた。しかし、ボウトがどれほど危険な存在か、彼の釈放がアメリカの国家安全保障にどれほどの損害を与えるのか、アメリカはいま一度考えるべきだった。

私は政府機関で過ごした35年間のうち、最後の4年である2004年から08年まで、麻薬取締局(DEA)で作戦本部長を努め、ボウトの逮捕と投獄につながった作戦を監督した。

ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の元幹部とみられるボウトは、1990年代からソ連製兵器の売買を始めた。03年には世界有数の武器商人となり、テロ組織や反政府グループ、麻薬カルテル、さらには世界中のならず者政権に武器を大量に供給していた。

米政府によると、ボウトの巨大な国際組織は「戦車やヘリコプター、武器を何トンでも世界のほぼあらゆる地点に運ぶ」ことができた。特にアフリカでは、武装勢力やテロリストが彼の武器で何十万人もの罪のない人々を殺戮し、05年のニコラス・ケイジの映画『ロード・オブ・ウォー』のモデルにもなった。ボウトがタリバンに売った武器は、アフガニスタンで米軍とNATO軍の攻撃に使われた。

アメリカと戦い続けた男

当然ながら、ボウトは米政府の重要な標的になった。05年に財務省はボウトに制裁を科し、米国内の巨額の金融資産を凍結した。06年に米政権はDEAに対して、新しく制定された麻薬テロ対策の法律を用いて、それまで手を出せなかった他の著名な犯罪者たちと共にボウトに法的措置を取るよう指示した。

そして08年、タイ警察はDEAと協力してバンコクでボウトを逮捕した。コロンビア革命軍(FARC)のメンバーを装ったDEAの工作員と会ったところで身柄を拘束したのだ。アメリカからテロ組織に認定されている反政府ゲリラのFARCは世界最大のコカイン生産者でもあり、以前よりボウトから武器を購入していたと考えられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中