「何でも燃やせ!」 燃料不足のポーランド、大気汚染が深刻に

トゥカチュクさん一家は2018年、ポーランドの都市クラクフを離れ、田舎のきれいな空気を求めてカルパティア山脈のふもとにある村、オウピニに引っ越してきた。写真は10月、欧州最大のベウハトゥフ石炭火力発電所から立ち上る煙と蒸気を眺める人々(2022年 ロイター/Kuba Stezycki)
トゥカチュクさん一家は2018年、ポーランドの都市クラクフを離れ、田舎のきれいな空気を求めてカルパティア山脈のふもとにある村、オウピニに引っ越してきた。
4年後の今年、ウクライナ戦争でロシアからポーランドへの天然ガス供給が止まったため、地元当局は最も空気を汚す旧式ストーブの禁止措置を延期。村の大気汚染は先月、基準値の4倍に達した。
「国から見捨てられ、やるせない気持ちだ。私にとっては一息一息が警告サインに思える」とユリア・トゥカチュクさん(38)は嘆く。
ポーランド2番目の大都市クラクフの状況はさらに悪い。
大気汚染を計測しているカリフォルニアの組織、エアリーによると、この秋初めて気温が氷点下になった11月20日の夜、クラクフの微小粒子状物質PM2.5の濃度はインドのニューデリーに次いで世界で2番目に高くなった。
ポーランドの他にもドイツやハンガリーなど多くの欧州諸国が、電力を賄うために最も大気を汚染する褐炭の使用を増やしているが、専門家によると健康被害が最も大きいのは家庭で褐炭を燃やすことだ。
トゥカチュクさんが住む地方では石炭が暖房の主要燃料であり、40%の家庭が「スモーカー」と呼ばれる旧式のストーブを使っている。有毒な煙を吐き出すことから付いた呼称だ。
クラクフのAGH大学で環境保護を専門とするピオトル・クレチュコフスキ教授は、トゥカチュクさんの州ではこうしたストーブの禁止措置が解除されたことで、この冬に最多で1500人の早期死亡者が出ると推計している。
褐炭は黒炭に比べて硫黄と灰分を数倍、水銀を5倍多く含む一方、3分の1のエネルギーしか生み出さない。家庭で燃やすと、硫黄と水銀という有毒な組み合わせの物質が排出され、ぜんそく、肺がん、心不全、脳卒中のリスクが高まる。
「暖房が必要だ」
ポーランドは長年、欧州で最も大気汚染がひどい国の1つで、地方政府は家庭での有害な燃料の使用取り締まりに努めてきた。
しかしロシア産ガスの供給が途絶えた4月以降、中央政府は2年前から実施している家庭での褐炭と低品質無煙炭の燃焼禁止措置を停止。ひどい大気汚染を引き起こす石炭廃物の販売制限も緩和し、スモッグ対策として石炭関連の規制が強化された2018年以前の状態に戻ってしまった。
与党「法と正義」のカチンスキ党首は9月、ノビ・タルクの住民に対し、「タイヤやそれに似た物以外なら何でも燃やすべきだ。残念ながらこれが現実だからだ。単純な話、ポーランドには暖房が必要だ」と呼びかけるに至った。