最新記事
中国

「偉大な復興」の終わりと「歴史的凋落」の始まり──中国の次期首相候補、李強を待ち受ける現実

LI QIANG

2022年12月28日(水)16時17分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
李強

REUTERS/AFLO

<中国の次期首相候補、李強を待ち受ける「偉大な復興」という夢の終わり、そして歴史的凋落という現実の始まり>

中国共産党党大会(2022年10月に開催)で、習近平(シー・チンピン)国家主席は党内の権力掌握に成功した。問題はその権力を行使できるかどうかだ。この10年、李克強(リー・コーチアン)首相との仲は水面下では険悪だった。3期目を迎えた習は23年3月には忠実な人物を行政トップの首相の座に就けると広くみられている。だが、それで円滑な統治が保証されるわけではない。

政治局常務委員会の新たな顔触れといまひとつぱっとしないメンバー全員の経歴から判断すると、次期首相の最有力候補は党のナンバー2に抜擢された李強(リー・チアン)だ。しかし、その李強でさえ首相には不適格に思える。

周恩来後の歴代首相6人は全員、副首相を経て首相に昇進している。副首相時代は首相になるための修業期間で、各省庁のキャリア官僚との関係を築く。李強の場合、その「下積み」の経験がない。それどころか、中央政府の役職に就いた経験は皆無だ。さらに言うなら、前職は上海市党委員会書記。皆が党の方針に従うよう、高官たちの肩越しにあれこれ指図するのが唯一の役割という政治的には付録のようなポストだ。

そうなったのも無理はない。中国では副首相は首相が指名し、全国人民代表大会(全人代)の自動的な承認を経て国家主席が正式に任命する。習と李克強の不仲のせいで、習の側近が副首相に指名されたためしはない。李克強が首相にするべく育てたのは胡春華(フー・チュンホア)副首相や汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席など自分の側近ばかりだったが、習は彼らを10月の党大会で一掃した。

つまり、習が次期首相に望むにしても、その人物は首相になる訓練を受けていないわけだ。党内の権力移行は突然だった。国務院(内閣に相当)の権力移行は荒れ、スムーズには運ばないはずだ。

次期首相が国際舞台に上る機会も限られそうだ。中国の権力構造では、中央政府の高官だけが主要国を訪れて相手国の高官に知己を得ることができる。李強が訪問した国はスペイン、イスラエル、パナマ、ベラルーシ、キューバその他いくつかの中小国どまり。習の途上国との関係は惨憺たるものだった。李強のような国外経験に乏しい人物がそうした壁を修復するのは難しいだろう。

経済的に重要な長江デルタ地域での経験が長いことを根拠に、李強は民間企業に優しい政策を推進して経済を回復させられると指摘する向きもある。しかし民間企業寄りの経歴は、国有企業優先の経済政策を好む習との間で摩擦を生みかねない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中