W杯で命懸けの国歌斉唱拒否に出たイラン選手の運命
Iran Soccer Team Could Face Arrest for Silence During National Anthem
カタールW杯での初戦、イラン選手は国歌を歌わず国内の抗議デモとの連帯を示した(11月21日) Marko Djurica-REUTERS
<サッカーW杯の国歌斉唱という檜舞台でイラン・チームは口をつぐんで歌わなかった。帰国すれば逮捕、国歌にブーイングしたイラン人観客たちも危ないという。改めて知るイラン体制の恐ろしさ>
FIFAワールドカップでは11月21日、イラン対イングランド戦がおこなわれたが、試合に先立つ国歌演奏中に、口をつぐんで歌わなかったイラン代表選手は、帰国後に重大な結果に直面するおそれがある。
世界の目が選手たちの反応に集まるなか、彼らは、3カ月前から抗議活動を続けているイラン国民との連帯を示した。イランの首都テヘランで、22歳のクルド人女性マフサ・アミニがヒジャブ(スカーフ)かぶり方が「不適切」として逮捕され、拘束中に死亡したことをきっかけに起こった抗議デモだ。
【動画】国歌を歌わないW杯選手、敗北を祝うファン、危険極まりない母国イラン
イギリスの情報番組「グッドモーニング・ブリテン」の特派員ジョナサン・スウェインのツイートを見ると、会場にいたイランのサッカーファンたちが自国の国歌にブーイングしている。ソーシャルメディア上のイラン人たちは、この国歌はイランのものではなく、実際には(イラン・)イスラム共和国のものだと指摘し、そのふたつを明確に区別している。
ニューヨークタイムズ紙のツイートによれば、イランのサッカーファンたちは、カタール・ドーハのハリファ国際スタジアム内に「イランに自由を」「女性、生命、自由」などと書かれたプラカードを持ちこんだという。スタジアムの外には、イラン革命前のパーレビ朝の旗を持ちこもうとして入場を許されなかったファンたちもいた。
W杯を中断させたかったイラン
ワールドカップ参加国のなかでも優勝オッズが低いイランは、最終的に、グループBの試合でイングランドに2対6で敗れた。
ロンドンを拠点とするペルシャ語放送局イラン・インターナショナルが11月21日付けでツイッターに投稿した動画には、テヘランのシャーラン地区に住むイラン人たちが、イラン代表チームの敗北に歓声をあげ、さらには「独裁者に死を」と繰り返す様子が写っている。
イラン当局は、12月18日まで続くワールドカップの期間中、国内の抗議活動に言及しないことを事前に要請した。
別の報道では、イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していたが、ホスト国カタールの反応を考えて思いとどまったと伝えられている。
ニューヨーク州立大学オルバニー校で国際法と人権について研究するデイビッド・E・グウィン教授が本誌に語ったところによれば、現在進行中の抗議活動は、イランの厳しい経済状況と結びついており、国歌斉唱を拒んだイラン選手だけでなくその家族も、「拘束や逮捕を含めた重大な結果に直面するおそれがある」。