最新記事

ロシア

プーチン、教育・医療費削って国防・治安予算を増額へ 「愛国教育」は513%増

2022年11月28日(月)15時21分

2023年の予算では、道路や農業、研究開発など「国家経済」関連の支出は23%減の3兆5000億ルーブルになる見通し。医療関連は9%減の1兆5000億ルーブル、教育関連は2%減の1兆4000億ルーブルだ。

ロシア大統領アカデミー(Ranepa)とガイダル研究所の共同調査によれば、インフラと産業への支出はそれぞれ23.5%、18.5%減少する。両研究所は、政府が西側諸国以外の新たな市場の開拓を試みている中で、この予算減は「重大な困難を引き起こす可能性がある」と指摘している。

研究開発への投資も削減されると見通しで、制裁で最新のテクノロジーが国内に入ってこない中、「多くの基幹産業では、国産のテクノロジーを開発するための資金が得られなくなる」とRenepaは見ている。

2018年に4期目を目指して大統領選挙に出馬したプーチン大統領は、2024年までにロシアを世界第5位の経済大国にするという目標を掲げ、道路から医療、教育に至るまで、合計13の「国家プロジェクト」に4000億ドル(約55兆6000億円)以上を投じると公約した。

こうした目標の達成はコロナ禍のもとで2030年に先送りされたが、来年度は関連の予算が10%削減されるため、アナリストらは、またもや目標を達成できなくなるリスクが高まっていると指摘する。

年金や福祉といった社会保障関連費は、プーチン大統領の国内経済政策の要であり、前回の大統領選挙でも有権者へのアピールに利用された。来年度は合計7兆3000億ルーブル、前年比では8%増だが、それでも軍事・治安関連予算の合計には及ばない。

Ranepaとガイダル研究所によれば、教育に関する国家プログラムへの拠出は削減されるが、進行中の事態や歴史的な出来事へのロシアの見解を反映するため、学校での「愛国教育」に関する予算は今年度に比べ513%増えるという。

ロシア国立研究大学経済高等学院は、医療費削減について「コロナ禍と医療サービスへのアクセス悪化という2つの要因による死亡率上昇に鑑みれば、正当化できない」と指摘している。

忍び寄る債務の影

経済制裁が歳入を圧迫する中で、ロシアは来年度の財政赤字がGDP比2%に相当する3兆ルーブルへと倍増すると予測しているが、アナリストらは、4兆5000億ルーブルに達する可能性もあると述べている。

財政赤字を補填するため、財務省はすでに政府系ファンド「ナショナル・ウェルス・ファンド」に手をつけており、さらに前週、ルーブル建て国債(OFZ)を発行して140億ドルを借り入れた。

これは1日の国債発行額としては過去最大であり、英国防省はツィッターで、ロシアが国防支出を賄うために借り入れを行っている兆候だと強調した。

ロシアの公的債務は来年GDP比17%になると見られており、国際標準に比べれば低い。だがアナリストらによれば、債務償還コストが支出全体に占める比率は、現在の5.1%から2025年には6.8%に膨らみ、医療と教育に向けた支出を上回る見込みだ。

ロシア金融大学は「2023年から2025年にかけて、公的債務は国の経済成長率を上回るペースで増加するだろう。これは借入資金の使用効率の低下を示しており」、経済成長に打撃を与えるだろうとしている。

(Darya Korsunskaya記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物言う株主が日鉄に提案、企業買収で損失発生なら業績

ビジネス

現代自動車、一部EVの韓国内生産を需要低迷で一時停

ビジネス

ネットフリックス、業績見通し強気 広告付きサービス

ビジネス

カナダの米株購入、2月は過去最高 大型ハイテク・金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 10
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中