最新記事

ウクライナ戦争

プーチンはヘルソン撤退発表時、病院にいた──戦争の終焉がまだ遠い理由

A Fallback Plan

2022年11月14日(月)11時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
ウクライナ軍

奪還目前のヘルソン付近で待機するウクライナ軍の部隊(11月9日) VIACHESLAV RATYNSKYI-REUTERS

<南部の要衝ヘルソンからロシア軍がついに撤退したが、プーチンは今も長期戦をねらっている。一方、ゼレンスキーが発表した和平交渉の5条件で注目のポイントは?>

ウクライナ南部の都市ヘルソンからロシア軍が撤退した。ロシアのラジーミル・プーチン大統領にとっては、2月24日のウクライナ侵攻開始後、一気に首都キーウ(キエフ)を陥落させようとして失敗し、撤退を余儀なくされたとき以来の大失態だ。

この撤退は、戦争の転機となる可能性がある。なにしろプーチンは9月末、このヘルソンを州都とするヘルソン州と、ルハンスク州、ドネツク州、そしてザポリッジャ州の4州をロシアに併合したと(勝手に)宣言していた。

ヘルソン市はドニプロ川が黒海に流れ込む地域にある重要な港湾都市でもある。そして大河ドニプロ川は、親ヨーロッパ的住民が多い西側と、ロシア系住民が多い東側に、ウクライナを地理的にも文化的にも隔てる大動脈だ。

今回のヘルソン市撤退(ロシア国営テレビで国内に向けても発表された)は、プーチンの野心にダメージを与えただけではない。ロシア軍はドニプロ川東岸に押し戻され、ウクライナ中西部を攻撃する足場を失うという、戦略的に大きなダメージを被った。

もちろん理論的には、東部で態勢を整え、再びドニプロ川を越えて攻勢に出る可能性はある。

だが、兵力や武器の喪失と、新たに投入された兵士たちの訓練不足、そして戦車の不足を考えると、攻勢どころか防衛線を維持するのが精いっぱいだろう(経済制裁による部品不足で、ロシアには戦車の生産能力がない)。

「(ロシア軍に)大規模な攻撃を仕掛ける余裕はないだろう」と、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のマーク・ガレオッティ名誉教授は指摘する。新たな戦闘部隊が組織されるとみられる「春先になっても、おそらく無理だろう」。

アメリカの情報機関の報告によると、ロシア軍高官は9月からヘルソン撤退をプーチンに促していたという。ウクライナの攻撃によりロシアの補給線は崩壊しつつあり、それが完全に寸断されれば、取り残された部隊は悲惨な運命をたどることになるからだ。

プーチンがその現実をようやく認めたのは、11月に入ってからだ。しかも、この大失態からなんとか距離を置こうとしたようだ。

9日のテレビ放送でヘルソン撤退を発表したのは、セルゲイ・ショイグ国防相と、ウクライナ侵攻作戦の総司令官を務めるセルゲイ・スロビキン大将だった。プーチンはその間、モスクワの病院を視察していた。

だが、ロシア国防省は撤退の決定を下したのはプーチンであることを明確にした。定例会見で、約4万人の兵士を東に移動させる措置は、「承認された計画に厳密に従った」ものだと発表したのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中