プーチンはヘルソン撤退発表時、病院にいた──戦争の終焉がまだ遠い理由
A Fallback Plan
プーチンの新たな誤算
今回のヘルソン撤退は、ウクライナ戦争の終焉が近いことを意味するものではない。ドニプロ川東岸の大部分はまだロシアが実効支配しており、戦闘が続く北部(ドンバス地方)に兵士たちを再配置することもできる。
また、ロシアにはミサイルの備蓄がたっぷりあり、ウクライナの都市部を爆撃できる。
実際、最近は発電所などの重要インフラにミサイルを撃ち込み、キーウをはじめ多くの都市を停電に陥らせた。住宅地や子供の遊び場など、軍事施設ではない場所への無差別攻撃も多数報告されている。
プーチンはこの戦争を長期戦に持ち込むつもりらしい。無差別攻撃でウクライナの一般市民を震え上がらせ、エネルギー供給を絶って厳しい冬を耐え難いものにすれば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も欧米諸国も、停戦を求める声に屈するかもしれないという計算だ。
だが、これは(というか、これも)プーチンの計算違いになりそうだ。最近のミサイル攻撃は、ロシアに降伏しまいというゼレンスキー(とほとんどのウクライナ人)の決意を固くしただけだった。
ロシア産エネルギーの供給を絶たれたヨーロッパ諸国も、代替供給源を見つけつつある。
ただ、ヨーロッパでもアメリカでも、大衆の忍耐がいつまで続くか懸念する声はある。そんななか、アメリカの中間選挙で「アメリカ・ファースト」を訴える共和党右派が不振に終わったことは、こうした懸念をいくらか後退させた。
ジョー・バイデン米大統領の右腕であるジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は11月4日、キーウを訪問して、アメリカの揺るぎない支持をゼレンスキーに直接伝えた。その一方で、少なくとも原則的には戦争の幕引きに意欲を示すよう、ゼレンスキーに圧力をかけた。
和平交渉のための5条件
このためゼレンスキーは7日、ロシアが5つの条件を満たすなら、和平交渉に応じると発表した。
その5つとは、ウクライナの領土的一体性の回復、国連決議の遵守、この戦争で破壊されたもの全ての復旧費用の負担、戦争犯罪者の処罰、そして二度と侵攻しないという約束だ。
この条件に「プーチンの退任」が含まれていないことは注目に値する。ゼレンスキーは10月、プーチンとは絶対に交渉しないとしつつ、プーチンの後継者とは協議する可能性を示唆した。今回プーチンの名前が言及されなかったことは、外交のなせる業だろう。