最新記事

略奪

「ポチョムキンの遺骨を掘り出して略奪、ウクライナ文化遺産を窃盗......」ロシア軍の蛮行があきらかに

2022年11月11日(金)19時30分
青葉やまと

ロシア軍はこうした考古学上の貴重な文化財に加え、セバストポリのクロシツキー美術館などをターゲットとし、19世紀の名画などをロシア本土へ運び出そうと計画している模様だ。

大聖堂から遺骨を掘り出して略奪

運び出されている文化財は、美術品だけに留まらない。米CNNは10月28日、18世紀ロシアで活躍したグリゴリー・ポチョムキン司令官の遺骨がウクライナ領外へ持ち出されたと報じている。

ヘルソンに位置する聖エカテリーナ大聖堂に安置されていた遺骨は、ドニエプル川を越えた東岸ロシア領へと持ち出された。移送先の詳細は明かされていない。ポチョムキン司令官は1783年にトルコからクリミアを併合する際に重要な役割を果たした人物であり、プーチン氏が名将として慕っている。

ほか、18世紀ロシアで最も有能な指揮官とされたフョードル・ウシャコフ海軍司令官など、複数の人物の記念碑がロシア領へと運び出されている。同州知事で親ロシア派のウラジミール・サルド氏は、安全が確認され次第これらの文化遺産は同地に戻される予定だと説明しているが、実現の見込みは不透明だ。

一部史料はブラックマーケットに流出

在ニューヨーク・ウクライナ博物館のピーター・ドロシェンコ館長は、米アートネットの取材に応じ、史的価値の高い多くの遺物が「ブラックマーケットおよびモスクワの博物館に出回っている」と指摘している。ロシア軍の一部兵士が金銭目的で売却している可能性が想定される。

治安が悪化し都市機能が麻痺するなか、ウクライナの貴重な文化遺産がどの程度の規模で略奪されているのかについては、正確な被害状況を把握することすら困難な状況にあるという。

略奪に加え、貴重な歴史的史料の破壊も深刻となっている。ユネスコによると2月の侵攻から9月時点までに、ウクライナの13の博物館、37の歴史的建造物、36の文化施設、82の宗教施設などが被害を受けた。ウクライナ文化省は9月、文化遺産の破壊などが500件以上に達したと発表している。

ロシアによる侵攻は目の前にある人間の暮らしを破壊しているだけでなく、ウクライナの将来に引き継がれるべき重要な遺産のあり方をも変えようとしているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中