ヘルソン撤退で「領土割譲の禁」を破ったプーチンの重罪
Putin abandoning Kherson is one of his most embarrassing setbacks yet
ナチスとの戦い前に「赤の広場」で行った1941年の革命記念パレードの展示を見るプーチン(11月8日) Sputnik/Aleksey Nikolskyi/Kremlin/REUTERS
<ヘルソン撤退はミサイル巡洋艦「モスクワ」を沈められたとき以来の深刻な打撃をロシアに与えるだろう>
ロシア政府は11月9日、ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市とその周辺地域から部隊を撤退させると発表した。軍事侵攻を開始してから8カ月になる戦闘で、この戦略的要衝からの撤退は、ウラジーミル・プーチン大統領にとって大きな痛手だ。
セルゲイ・ショイグ国防相は、軍事侵攻の指揮を執っているセルゲイ・スロビキン総司令官の提言を受けて、撤退の決断を下したと明らかにした。これによりロシア軍の各部隊は、ヘルソン市からドニプロ川の東岸地域に撤退することになる。既に撤退が完了しているのかどうかについては、明らかになっていない。
ワシントン・ポスト紙によれば、スロビキンは9日にテレビで放送されたコメントの中で、「ドニプロ川の東岸地域を防衛するという決断は簡単なものではなかったが、これによって兵士たちの命と部隊の戦闘能力を守ることができる」と述べた。
ヘルソン市は、プーチンが2月24日に軍事侵攻を開始した直後に掌握した戦略上の要衝であり、ロシア軍がウクライナで掌握した唯一の州都だった。ロシアが9月末に一方的に併合を宣言した4州のうちの一つであるヘルソン州の州都からの撤退は、とりわけ重大な意味を持つ。
苦戦を認める決断
ウッドロー・ウィルソン国際研究センター/ケナン研究所のウィリアム・ポメランツ所長は本誌に対して、9月末の併合によりヘルソンは恒久的にロシアの領土であると宣言されたのに「2カ月も経たないうちに手放すことになった」と語った。
ウクライナと西側諸国の指導者たちは、ロシアによる4州の併合について繰り返し「違法」だと非難してきた。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は9月末、ロシアが4州を一方的に併合しても、ウクライナにとっても世界にとっても「何も」変わらないと述べていた。ロシアによる4州の併合宣言の後、ウクライナ側はヘルソンをはじめとする複数の地域で、ロシア軍に掌握された地域の奪還を目指して反転攻勢を続けていた。
ポメランツは、ヘルソンからの撤退は厳密に言えば、ロシアが2020年の憲法改正で定めた「領土割譲の禁止」に違反すると説明。「プーチンは自らその禁を犯し、併合した領土を自らウクライナに返還する判断を下した」と述べた。また彼は、これはプーチンにとって「きわめて重大な敗北」だとの見解を示し、撤退は「ウクライナでの戦争が順調に進んでいないことをロシアが認めた数少ない例の一つ」だと指摘した。