世界の港を次々と支配する中国...国有「海運」企業が遂に「正体」を露わにし始めた
BUSINESS OR POWER?
「コスコ・グループは中国で唯一の海運会社と言っていい」と、独キール世界経済研究所のロルフ・ラングハマー教授は語る。このため同社は、中国の輸出業者や外国の港湾に対して著しく大きな影響力を持つ。
世界の貿易に占める中国のシェアは約15%(アメリカは約8%)。「だからコスコ・グループは、『おたくの港の運営に関わらせてくれないなら、中国からの商品を別の港に届けてもいいんだけど』と脅すことができる。これは国有企業だからできることだ」と、ラングハマーは語る。
コスコ・グループは2016年、世界の貿易で中国が圧倒的な地位を獲得するための「大掛かりな戦略的措置」として、複数の国有企業を合併して設立された持ち株会社だ。中国は世界貿易の「強力な重力場」でなければならないと、李克強(リー・コーチアン)首相は21年に語っている。国有企業だから、経営幹部は中国共産党の人事を担当する中央委員会組織部によって任命される。実際、許立栄(シュー・リーロン)会長は同社の党委員会書記でもある。
船内に「共産党特別委員会」
表紙に「内部資料」と書かれたコスコ・グループの船員向け小冊子(約70ページ)からは、船内での党活動を垣間見ることができる。船内の「党特別委員会」には、軍事委員とさまざまなレベルの船員が属している。船内各所には党の理念や規律が記された小冊子が常備されており、テレビ画面には中国指導部のメッセージが映し出される。
本誌の調べでは、コスコ・グループで党委員会が設置されている船舶は40隻ある。また、リークされた党員名簿によると、ギリシャのピレウス港を運営する党委員会には64人、ニューヨーク港に23人、アフリカに52 人、インドネシアのスラバヤ港には24人のメンバーが在籍している。中国共産党は、世界の海でも港でも積極的な活動を展開しているのだ。
コスコ・グループの船員管理会社である中遠海運船員管理の場合、船員に約1万人の一般党員のほか、150人の特殊党員がいると、同社の党委員会書記を務める韓超(ハン・チャオ)会長は19 年の報告書で明らかにしている。
例えばコスコ・グループのコンテナ船ローズ号では、「船の党委員会が、党の最新の理論的成果を船員たちに教育している」と、報告書にはある。さらに、あれこれ抽象的なドグマを並べた上で、ローズ号党委員会は「大衆を結束させる中核であり、困難を乗り越えるためのとりで」だと、報告書は締めくくっている。
「(海外の港にいる間)船員は外国の敵対勢力による工作を阻止し、自分の権利と利益を守らなければならない」と韓は述べ、政府の「外交に関する規律」に従うことを船員に求めた。