世界の港を次々と支配する中国...国有「海運」企業が遂に「正体」を露わにし始めた
BUSINESS OR POWER?
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<貨物だけでなく共産党員や軍事委員を大量に乗せた中国国有企業の商船が、中国マネーが投じられてきた世界の港に解き放たれる>
北海からエルベ川に入り、ドイツ最大の港ハンブルクを目指す大型貨物船リブラ号。甲板には色とりどりのコンテナがレゴのブロックのように積まれている。その姿は、世界の海や川を行き交う大型貨物船と何も変わらないように見える。
だが、リブラ号は単なる商船ではない。中国の国有企業・中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が運航するこの船は、貨物だけでなく、中国共産党の下部組織や軍事委員も乗せている。船員も党に忠誠を誓い、国の経済力や国力の増進に努めることになっている。
中国自身も、リブラ号のような船を「浮かぶ要塞」と呼び、世界の海運と物流の支配をもくろむ長期戦略の最前線に位置付けている。これに対して欧米の一部諸国は、これらの船から展開されるスパイ活動や経済的脅迫行為、デジタル支配、軍事拡張努力に神経をとがらせている。
現在、コスコ・グループのように中国政府の息がかかった海運会社は、世界全体で100近くの港の権益を保有している。アメリカも例外ではない。今や5つの港(マイアミ、ヒューストン、ロングビーチ、ロサンゼルス、シアトル)の運営に中国資本が入っている。
「貿易は地球の循環器系のようなものだ」と、米海軍大学のアイザック・カードン助教は言う。「港はそのノード(節)の役割を果たす」
中国が世界各地の港湾に投資していることについて、世界最大の輸出国なのだから商業的に合理的な行為だと擁護する声もあれば、これは政治的、経済的、軍事的な利益を兼ねた行為であり、いつか軍事力を行使するときに利用される恐れがあると懸念する声もある。実際、中国資本が入った港の約3割は、中国海軍の艦艇を受け入れている。
党の指示に従い、祖国のために航行
本誌の取材とコスコ・グループの社内資料によると、中国共産党は同社内で活発に活動している。対外的には現代的なビジネスを展開しているように見えるが、国内では「党の指示に従い、祖国のために航行する」と明言しているのだ。中国の海洋プレゼンスを補強する役割を果たす企業はほかにもあるが、コスコ・グループはその中で最大だ。
世界の港湾の買収に関わっている中国企業は約30社あり、そのほとんどが国有だ。最大手はコスコ・グループと、中国の港湾運営大手の招商局集団。3番目は香港系の民間企業ハチソン・ポートだが、やはり中国政府の影響下にある。