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ロシアが米軍も止められない極超音速ミサイルをベラルーシに配備

Can Ukraine's Air Defense Upgrades Stop a Russian 'Killjoy' Attack?

2022年11月2日(水)17時39分
アンドリュー・スタントン

ベラルーシに配備されたミグ31と極超音速ミサイル「キルジョイ(キンジャール)」は、ロシアの最強兵器の1つ MILITARY UPDATE/YouTube

<「極超音速兵器に対して、優れた防御力を発揮するようなシステムは、今のところ存在しない」と、米専門家は言う。配備を受け入れたベラルーシの対ロ協調が見せかけだけならいいが>

イギリスの情報機関はロシアの極超音速ミサイルAS-24「キルジョイ(ロシア名は「キンジャール」)がベラルーシに配備されたとみている。最高速のこのミサイルが飛来した場合、現在のウクライナの防空システムでは、ごく一部しか撃ち落とすことができないだろう。

イギリス国防省は11月1日、ロシア製のキルジョイ空中発射弾道ミサイルがベラルーシのマチュリシ飛行場に保管されているという見解を発表した。同省が毎日発信している情報によれば、マチュリシ飛行場にはロシアのジェット機が駐機しており、そばにキルジョイに関連するとみられる容器があることが、衛星写真で判明したという。

キルジョイ・ミサイルは、アメリカがウクライナに供与したM142高機動砲兵ロケットシステム(HIMARS=ハイマース)などのミサイル類と比べると、いくつか優れた点がある。例えば、核弾頭の搭載可能で、航行速度は時速約1万4500キロに達する。

極超音速技術を専門とするコロラド大学国家安全保障イニシアチブセンターのイアン・ボイド所長は1日、極超音速ミサイルの飛行速度からして、ウクライナの現在の防空システムで撃墜できるのは20%ぐらいだろうと本誌に語った。

迎撃できる確率は低い

ミサイルがあまりにも高速で飛ぶため、防衛システムを操作するウクライナ軍が反応する時間の余裕はかなり短くなる、とボイドは言う。ウクライナが使用しているS-300対空ミサイル・システムの射程は10~100キロだが、キルジョイ・ミサイルは1秒間に3キロ移動できるため、瞬時に反応しなければならない。さらに、S-300の迎撃高度は極超音速ミサイルの飛行高度よりも低く、速度はキルジョイの半分程度だ。

「迎撃に成功する確率は低い。倍の速度で飛来するのだから、迎撃できないのは当然だ」と、彼は言う。「ウクライナが持っているシステムでは、飛来するキルジョイの一部を撃ち落とすことしかできない」

米国防総省は10月31日、ウクライナに短距離防空ミサイル・システム「NASAMS(ナサムス)」8基と関連弾薬を供与することを約束した。レイセオン・テクノロジーズ社のグレッグ・ヘイズCEOは、この防衛システムは「ドローンから弾道ミサイル、戦闘機まで、あらゆるものを空中で打ち落とすことができる」とCNBCに語った。

ボイドは、最大射程距離が少し長いNASAMSは、ウクライナの戦力増強の点から役に立つが、キルジョイの多くを撃墜するのは難しいだろうと指摘する。

ただし、NASAMSには抑止的な効果があるかもしれない。ロシアがキルジョイの使用を限定し、必要不可欠な作戦にとっておく可能性はある、と彼は付け加えた。

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