最新記事

人権問題

比マルコス政権、発足4カ月で46人を殺害 麻薬捜査現場で続く「超法規的殺人」

2022年11月15日(火)18時21分
大塚智彦
フィリピンのマルコス新大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領(左)

フィリピンのマルコス新大統領(右)とドゥテルテ前大統領の娘で現副大統領のサラ・ドゥテルテ Eloisa Lopez - REUTERS

<塀の中でも麻薬犯罪が横行する国は、人権よりも犯罪捜査を重視か>

麻薬関連犯罪の捜査現場で法的手続きを経ずに容疑者を問答無用で射殺するいわゆる「超法規的殺人」が横行したフィリピン。フェルディナンド・マルコス新大統領が就任した6月30日以降、すでに46人が殺害されていることが明らかになり、ドゥテルテ前大統領時代と変わらない過酷な捜査に人権団体などからは批判が出る事態となっている。

これは一部メディアが11月14日に伝えたもので、麻薬捜査の現場での「逮捕に伴う実力行使」は最小限に留めるというマルコス大統領の方針が捜査現場ではあまり反映されていないことを示しており、取り締まる警察への厳しい目も向けられているという。

国家警察長官が会見で正当性強調

フィリピン国家警察のロドルフォ・アズリン長官が14日にマニラの外国特派員協会で開かれた会見で「マルコス新大統領が誕生した6月30日以降、フィリピンの法執行機関は麻薬関連犯罪の容疑者逮捕に関連して46人が殺害された」ことを明らかにした。

さらにアズリン長官は「46人のうち32人の容疑者が警察による摘発捜査の過程で死亡し、残る14人の容疑者は捜査当局との衝突で死亡した」と殺害の詳細に言及した。

そのうえで「私が常に強調しているのは、麻薬捜査の現場では警察官の生命を危険にさらすことなく安全を確保するということである」として、46人の容疑者の殺害は警察官の生命が危険に直面した結果のやむを得ない結果であるとしてその正当性を示した。

ドゥテルテ前大統領時代の犠牲者

「今後も麻薬捜査では警察官や麻薬捜査当局捜査官による現場での実力行使を最小限とするという方針に変更はない」とも述べたアズリン長官は「超法規的殺人」を暗黙に容認していたとされるドゥテルテ前大統領の時代にその犠牲となった容疑者の数について6252人であるとの数字を示した。

これは先に警察当局が示した約8000人というデータを下回るものであるが、アズリン長官の数字にはいまだに続く「調査中」を除いた確定犠牲者の数だと長官周辺は援護射撃している。

しかし人権団体などは警察などによる「超法規的殺人」の犠牲者は約2万人から3万人に達するとしており、警察の数字とは大きくかけ離れているのが実情だ。

ドゥテルテ前大統領時代の「超法規的殺人」には無実、無抵抗、非武装の一般市民や少年までもが犠牲者となっており、捜査当局や情報提供者による人違いによる誤認射殺や対立する麻薬組織の抗争の犠牲、麻薬犯罪とは無関係の犯罪容疑者、さらには個人的怨恨に基づく殺人など警察による「麻薬捜査」の便乗犯が横行したとされ、全体の犠牲者数や麻薬犯罪に関連した犠牲者数の正確な把握が難しいという側面もある。

こうした背景が警察当局と人権団体による犠牲者数の相違に反映されているという。

マルコス大統領の基本姿勢

こうした状況に対してマルコス大統領は基本的にドゥテルテ前大統領の麻薬関連犯罪への取り組みを継承する姿勢を示しているが、「麻薬を使用する末端の容疑者から麻薬を輸入、販売するなどしている麻薬シンジケートの摘発に捜査の主眼を置く」との方針を明らかにしている。

10月3日にマニラ首都圏で著名なラジオコメンテーターが殺害される事件が発生し、その後の捜査で殺害実行犯が警察に出頭し、ビリビッド刑務所内から殺害指示を受けたことを告白した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中