比マルコス政権、発足4カ月で46人を殺害 麻薬捜査現場で続く「超法規的殺人」
捜査は矯正局幹部にまで及んでいるが、複数の指示ルートに刑務所で受刑中の複数の麻薬シンジケート幹部が関与していたことが明らかになっている。
さらに口封じのために殺害された服役囚から薬物反応が出たことから刑務所内でも薬物が蔓延していることも浮上。シンジケートが刑務所内でも麻薬を仕切っている実態が明らかになっている。
こうしたことからフィリピンの麻薬犯罪には複数の巨大シンジケートが関与していることは明白で、マルコス大統領の「シンジケート摘発に注力する」という捜査方針は国民から前向きに評価されているという。
ドゥテルテ前大統領へのICCの捜査
2016年に就任したドゥテルテ前大統領に関しては「超法規的殺人」が重大な人道に対する罪に当たるとして「国際刑事裁判所(ICC)」が2018年に予備調査に着手した。
これはフィリピン人弁護士ジュード・サビオ氏による2017年4月の告発・提訴を受けたものだ。告発によるとドゥテルテ前大統領は南部ミンダナオ島ダバオ市市長時代に1400人以上、大統領就任後8000人以上が「超法規的殺人」で不法に殺害された、と指摘している。
当時のパネロ大統領顧問は「告発・提訴には根拠もなくICCの管轄権もない。ICCの捜査は国民に対する犯罪を規定しているが、対象は麻薬犯罪容疑者である。ドゥテルテ大統領のイメージ悪化を狙った悪質なプロパガンダである」と強く反発した経緯がある。
フィリピンはこうしたICCの動きに対して2019年にICCから脱退したが、その後も予備調査は続いた。ICCはフィリピンは脱退したもののその脱退以前は捜査の対象となるとの見解を示し、重ねてフィリピン政府にICC調査官の入国、現地捜査を求めているが、フィリピン側はこれを断固拒否している状態が続いている。
フィリピンの麻薬犯罪は根深く、シンジケートが暗躍する裏社会の闇は深い。しかしドゥテルテ前大統領による「超法規的殺人」を含む麻薬犯罪に対する強い姿勢は国民から支持を得ていたことなどから、国民は麻薬犯罪の一掃を願っており、その根を断つマルコス大統領の姿勢への期待は高い。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など