ロシア旗艦「モスクワ号」撃沈にいちばん動揺したのは、中国軍?──空母と台湾有事
The Moskva’s Lessons
中国がアメリカに匹敵する諜報、監視、偵察能力を有するか否かについては議論の余地がある。遠距離から軍艦を攻撃するには、段階を踏まねばならない。そうした位置の確認から追跡、交戦、事後の査定に至る一連のプロセスは「キルチェーン・モデル」と呼ばれる。
台湾を「ハリネズミ化」せよ
軍拡競争が続くなかアメリカが期待をかける対抗策が、巡洋艦や駆逐艦のMk.41垂直発射システムに艦対空ミサイル「発展型シースパロー」を4発実装する「クアッド・パック」。
発射セルに1発ではなく4発のミサイルを収納すれば大規模攻撃への防御力が高まり、弾薬補給が困難な場合も攻撃の見通しがよくなる。実用化は先だが、対艦巡航ミサイルを迎撃するレーザーも開発中だ。
アメリカと中国、どちらが優位なのか。
「アメリカは再び自国を守れるようになりつつあると個人的には推測するが、それは新しいテクノロジーに触れ込みどおりの性能があるかどうかに懸かっている。だから断言はできない」と、米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授は語る。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がホームズと同じ見方ならば、早く台湾侵攻に踏み切るべきだと考えるかもしれない。「習が『やるなら今だ』と思い込むのを、私は懸念している」と、ホームズは言う。
だがこと台湾に関して、A2ADは中国の足かせにもなる。アメリカの艦隊を寄せ付けたくない中国は、A2ADのせいでかえってアメリカによる軍備の増強を招いた。台湾に侵攻するには、今でも既に世界で最も防御の堅い海域の1つで軍を動かさなければならないのだ。
モスクワ号の沈没を受けアメリカの議員はこのときとばかり、台湾の軍部に「ハリネズミ戦略」の理を説く。台湾の国土にハリネズミの針のようにびっしりミサイルを配備し、防衛力と抑止力を強化する計画だ。
「(中国からの)攻撃に弱い高性能な防衛システムではなく、低コストで最大の抑止力を発揮し、機動性と抗堪(こうたん)性の高いテクノロジー、つまりはウクライナが使用した対艦ミサイルのような兵器を中心に据える」と、米下院外交委員会の共和党トップであるマイケル・マコールは説明する。
だが台湾はなかなか納得しない。