ゼレンスキーに「覚悟」が生まれた瞬間──プーチンとの「戦前対決」で起きていたこと
ROLE OF A LIFETIME
ゼレンスキーは「平和大統領」を目指して就任した。ドンバス地方での戦争を終わらせ、ロシア連邦との厄介な関係に終止符を打つと約束したのだ。そのためなら悪魔と交渉することも辞さない、と。
しかし、クレムリンの悪魔が交渉に応じる条件はただ一つ、ウクライナがロシアに降伏することだった。ゼレンスキーには受け入れられない条件だ。
プーチンは選択の余地を与えなかった。ゼレンスキーは平和大統領ではなく「戦争大統領」にならざるを得なくなったのだ。そしてロシア占領軍との戦いで国を導くという使命を背負うことになった。軍に所属したことがなく、19年まで政治経験もなかった人間にとって厳しい試練だ。
戦争が始まるまで、ゼレンスキーの公の場での演説には過去の演技が透けて見えた。間合い、表情、声のトーン、身ぶり手ぶり。全てが芝居がかっていた。
今年2月24日、ゼレンスキーはこれらの武器を捨て去った。私たちの前に全く別の人物がいた。くたびれた顔はひげもそっていない。カーキ色の服にネクタイはなく、メークもせず、テレビのスポットライトもない。ロシアとウクライナの戦争の渦中に陥ったあらゆる階層のウクライナ人について、心を痛めながら語る大統領。本当の感情を持った人間。自分の国の戦争を世界に訴えるウクライナ民族のリーダーがそこにいた。
第6代ウクライナ大統領は俳優から、ついにウクライナ国家の指導者になった。世界の指導者から興味と皮肉を向けられてきた男が、今や西側で喝采を浴び、世界の指導者が誇らしげに友人と呼びたくなる政治家になったのだ。
▶Excerpt adapted from ZELENSKY: A BIOGRAPHY by Serhii Rudenko. Copyright © 2022 Polity Press.
セルヒー・ルデンコ[著]
安藤 清香 [翻訳] アンドリー・グレンコ [解説]
PHP研究所
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