最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナと心中覚悟のプーチン──なぜ私たちは核戦争のリスクを軽く見たがるのか?

Before a Nuclear War Begins

2022年10月19日(水)12時58分
アリエル・レビテ(カーネギー国際平和財団)、ジョージ・パーコビッチ(カーネギー国際平和財団)

仮に核攻撃が始まっても、戦闘(少なくとも核攻撃)の停止に向けた交渉は模索すべきだ。諦めてはいけない。言うまでもないが、核ミサイルの応酬が始まれば、世界は今よりも、そして早期停戦で核戦争を未然に防いだ場合よりも悲惨な状態になる。

現時点で妥協と停戦に応じれば、西側諸国の指導者たちは核の脅しに屈したと非難されるかもしれない。しかし核兵器の使用を許したと非難されるよりは、格段にましではないか。

ひとたびロシアに核の使用を許せば、他の核保有国はこう思うだろう。やはり核の脅しだけでは効果がない、核兵器は実際に使ってこそ意味があると。

有意な停戦の実現には何が必要か。まずロシアは、主権国家であるウクライナを破壊し、現状よりもさらに支配地域を広げるという目標を放棄する必要がある。

一方でウクライナとNATO諸国は、2014年以降にロシアに奪われた領土の全てがすぐに戻ってくると期待してはいけない。

また国際社会はロシアに圧力をかけ、今年2月24日以前の欧州(ウクライナを含む)における国境線の変更につながる新たな侵攻を固く禁じる条項をのませるべきだ。

停戦監視の条項は成文化し、国連や欧州安保協力機構(OSCE)が監視に当たる。そして交戦が止まった後には、その時点でロシア軍とウクライナ軍それぞれが支配している地域の統治形態に関する難しい交渉が待っている。

プーチンはもう負けた

一方で西側諸国は、ウクライナ軍の再強化と軍事物資の補給に注力すべきだ。さもないとロシアが停戦違反の誘惑に駆られる。ウクライナのNATO加盟はないとしても、ロシアによる占領と脅威が続く限り、西側諸国はウクライナ支援を継続する。この事実を、ロシアに受け入れさせる必要がある。

停戦ラインがどこに引かれるにせよ、ひとたび戦闘が止まったら、ウクライナには第2次大戦後のマーシャルプランに匹敵する復興支援を受ける権利がある。西側諸国の国民は、自分たちの税金がそのために使われることを覚悟すべきだ(もちろん経済制裁でロシアから接収した資産・資金も振り向ける)。

だが核戦争が始まり、戦域がウクライナ以外にまで広がってからでは復興費用も膨大になる。それに、核戦争でウクライナの領土を取り返せる保証もない。だから一刻も早く停戦を実現し、ウクライナの復興に手を付けるべきだ。

それを見れば、ロシア国民もひどい収奪や抑圧、孤立を招いたプーチン政権に見切りをつけることだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中