父に見つかった癌に勇気をもらった私──自分の癌リスクを知るとは?
We Have the Cancer Gene
2016年の結婚式の際に父親と一緒に踊る筆者 DR. SHOSHANA UNGERLEIDER
<BRCA遺伝子の変異が影響を及ぼすのは乳癌と子宮癌だけではない。そのことを医師でも知らない人が多い。父がステージ4の膵臓癌と診断されたことをきっかけに学んで受けた、遺伝子診断とは?>
6月後半のある日、父から電話がかかってきた。「悪い知らせがある」と、父は切り出した。「数カ月前からおなかに痛みを感じていて、病院で調べてもらうと、膵臓に腫瘤があると言われたんだ」
私の職業は内科医。これは深刻な状況だと、すぐ分かった。父の母親(つまり私の祖母)は、70代前半に膵臓癌で世を去っている。父の父親と兄弟の1人も、50代前半で食道癌により死亡した。
73歳の父と一緒に腫瘍内科を受診したところ、父がステージ4の膵臓癌で、肝臓にも転移していると言われた。そのあと医師が述べた言葉に、私は衝撃を受けた。
一般に膵臓癌の予後は悪いと言われるが、医師によると、ステージが進行した膵臓癌患者の中には、「PARP阻害薬」という新しい薬を用いることにより、3~5年、さらには10年生存する人もいるとのことだった。
医師は、父が遺伝子検査を受けることを勧めた。BRCA遺伝子の変異が確認されれば、この薬を使用できるとのことだった。
私たちは、誰もがBRCA1とBRCA2という遺伝子を持っている。これは、癌の発生を抑制する働きを持った遺伝子だ。このどちらかが変異を起こしていれば、その人は癌になりやすくなる。
この遺伝子変異がある人は400人に1人と言われるが、アシュケナージ系(東欧系)ユダヤ人の場合は40人に1人の割合に達するとされる。私たちの家系はそのアシュケナージ系ユダヤ人だ。
医師である私は、BRCA遺伝子のことは知っていた。けれども、自分とは関係のない話だと思っていた。BRCA遺伝子の変異が関係して発症するのは乳癌と子宮癌だというイメージを持っていて、私の家族に乳癌や子宮癌の患者はいなかったからだ。
その日、父の膵臓癌にBRCA遺伝子が関係している可能性があると言われたとき、私は背筋が寒くなった。私の一族をさいなんできた癌の歴史が私の未来にも暗い影を落とす可能性があると気付いたのだ。