きっかけは1人の女性の死。今回のイラン抗議デモがこれまでと違うのはなぜか
Iran’s People Power Moment
道徳警察に対する抗議は体制批判へとつながっている(テヘラン、9月21日) WANA-REUTERS
<「ふしだらな格好」を道徳警察にとがめられた若い女性が、病院で死亡。抗議行動は全土に広がり、体制批判にも発展している。近年はデモが頻発しているイランだが、今回のデモは何が違うのか>
イランが燃えている。きっかけは1人の女性の死だ。
地方から首都テヘランを訪れていたマフサ・アミニ(22)は、地下鉄の駅を出たところで「道徳警察」に目を付けられ、連行された。
理由は、ヒジャブ(イランの女性に着用が義務付けられている髪を隠すためのスカーフ)から髪が少し出ていたからとも、ぴったりしたジーンズをはいていたからともいわれる。
残念ながら、この種の逮捕はイランでは珍しくない。そして拘束中に命を落とすことも、そんなに珍しくない。
だが、アミニの死は「イランで時々ある残念な出来事」では終わらなかった。
「病院のベッドに横たわる彼女の写真が流出したのだ」と、イラン系アメリカ人の弁護士ギスー・ニアは言う。「顔は腫れ上がり、首には分厚いガーゼが巻かれ、呼吸器につながれていた。その衝撃的な写真が、元気なときの美しい彼女の写真と共に、ソーシャルメディアで広く共有された」
9月に一部の女性たちが始めた抗議行動は、たちまち男性も巻き込んでイラン全土に広がり、体制批判にまでつながっている(編集部注:9月30日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「弾圧」で少なくとも市民52人が死亡していると発表)。
いったいイランで何が起きているのか、スレート誌のメアリー・ハリスがニアに話を聞いた。
――イランでは100年以上前から、女性たちの権利獲得を目指す闘いがあった。だが、1978年からの革命でイスラム共和制が樹立されると、最高指導者のルホラ・ホメイニが、既に限られていた女性の権利を一段と奪い始めた。
公共の場や職場における女性の権利が、毎日のように削られていった。女性が判事になることが禁止され、離婚手続きを起こすことが禁止され、軍隊に入ることが禁止され、というように。
女性の結婚年齢は9歳からに引き下げられた。そして「国際女性の日」の直前に、ホメイニが官公庁で働く女性にヒジャブの着用を義務付けた。そこから着用義務が拡大していった。
――女性たちの反応は。
すぐに大規模なデモや座り込みなどの抗議行動が起きた。
――イランの女性は非常に教育水準が高いが、それでも自由を制限されている。
イランの女性は識字率が非常に高く、教育もある。男性よりも女性のほうが大卒者は多いとも聞く。
ただ、女性たちを家庭にとどまらせるよう仕向けるさまざまなルールがある。女性が外で働いたり、スキルを活用したりすることは奨励されていない。