中国人なら騙されない 「中国でクーデター」説が拡散した3つの理由
国慶節前夜の9月30日、人民大会堂でのレセプションに出席した習近平 FLORENCE LO-REUTERS
<軍がクーデターを起こし、習近平が姿を消した――。法輪功のグループが噂を広めたが、世界の大半の人々は中国の現実を知らない>
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に対し、李橋銘(リー・チアオミン)という将軍がクーデターを起こした──その噂は9月23日頃から在外華人社会で広まり、インドのメディアを通じて一気に拡散した。
習は27日に公の場に姿を現し、噂は否定されたが、一時は多くの人の目に触れ、一部の著名人もこの説を繰り返した。
中国共産党内で習に対するクーデターが起こる可能性はゼロではない。経済的失政と政策ミスへの不満は、エリートの間でも高まっている。
だが、今回の説には何の根拠もない。この手の噂が中国国外で繰り返し浮上するのは、中国の権力中枢に関する情報が少なすぎる上に、ひどい曲解を生みかねないからだ。
在外華人社会の反共産党グループの間では、北京の権力中枢内部の陰謀話がしばしば関心を集める。その大半は根拠のない単なる噂だが、かつては内輪話にすぎなかったものが、今はSNSで拡散される。
今回の場合、中国国内の航空便が欠航しているという反体制派ジャーナリストの主張が発端だった。
多くの場合、こうした噂を広める上で重要な役割を果たすのは、中国で弾圧されている新興宗教・法輪功のグループだ。
9月23日、法輪功系のジャーナリストが噂を取り上げ、何度もツイート。それをインドのメディア、特に国粋主義的なインディアTVと一部の政治家が拡散させたが、専門家が繰り返し反論したため、噂は沈静化した。
この騒ぎは中国政治の何を物語っているのか。
第1に、共産党の厳しい情報統制が噂の呼び水になること。クーデター説の唯一の証拠は、習が9月16日に中央アジアから帰国してから公の場に姿を現さなかったことだ。習も人間なので風邪をひいたり休暇を取ったりするはずだが、共産党はそれを認めることができない。強い英雄的指導者のイメージに傷が付くことを恐れているからだ。
党首脳は基本的に情報を公開しない。私生活を調べようとすれば、中国では厄介な問題になる。
第2に、世界の大半の人々は中国の日常的現実を知らない。航空便が欠航になったという話も、ゼロコロナ政策の影響で中国の航空便が頻繁に欠航になることは中国人なら周知の事実だ。
パンデミックに伴う孤立化のため、外部の世界から見る中国の姿と現実のギャップは広がる一方だ。インドの場合、中国に特派員を置くメディアは噂をあおるのではなく、沈静化させる報道を行っていた。