消費者物価10%上昇の英国、生活苦で性風俗の副業始める女性が急増した
慈善団体「ヤング・ウィメンズ・トラスト」の調査では、生活費危機による影響は男性よりも女性の方が深刻であることが判明している。シングルマザーの約半数が過去1年のうちに食料品や生活必需品を購入できない状況を経験しており、若い母親の10人に3人は、子どもに食べさせるために自分の食事を抜いたことがあるという。
同団体のクレア・レインドープ最高経営責任者は、低料金の保育サービスや、いつもの仕事で残業を増やして収入増を図れるような就業機会に恵まれている女性は多くないと語る。
だが、ヨーク大学ビジネス社会学部の博士研究員であるテス・ハーマン氏によれば、性風俗業では労働者保護が手薄であり、インフレでもサービス対価を引き上げることは困難だという。
「公共料金も食料品も値上がりするが、賃金の多くは横ばいだ。不安定な職種やギグ・エコノミー(単発請負型経済)では特にそれが顕著だ」と同氏は分析する。
低下する交渉力
マーサさんは、デジタルコンテンツのサブスクリプション(サブスク、定額制)サービス、アダルトサイト、そしてツイッターで直接連絡してくる顧客向けに、成人向けコンテンツを制作している。
報道によれば、オンラインのセックスワーカーに顧客から支払われる金額は減少している。顧客からの支払いとしてはサブスク料金やペイ・パー・ビュー方式での支払いのほかに、直接依頼したコンテンツの対価をセックスワーカーに払う、あるいはチップを与えるといった形がある。
サブスクサービスでの成人向けコンテンツ制作者の中には、最近2カ月で収入が30%減少したという声もある。他方で、このサービスの透明性に関する報告書によれば、制作者用アカウントの申請は今年9月、前年比で20万件近く増加したという。
労働組合「ユナイテッド・セックスワーカーズ」の広報担当者オードリー・カラドンナ氏は「パイが小さくなっているのに、取り合う労働者が増えれば、顧客に対する労働者側の交渉力は大幅に低下する」と語る。
性風俗業を始める人が直面するリスクについて、カラドンナ氏の見方はワトソン氏の懸念と同じだ。オンライン性風俗業の規制に向けた2つの新たな措置により、経験の浅いセックスワーカーがリスクの大きい仕事に向かうことになりかねないと同氏は指摘する。
1つは、決済事業者である米マスターカードが昨年、アダルトサイトに関するポリシーを厳格化したこと。もう1つは、英国のオンライン安全法案が、ウェブサイトから性的な広告を締め出す方向に動いていることだ。
カラドンナ氏によると「売春行為で知られる地域で働く人が増えれば警察と接触する機会が増えるため、もっと孤立した地域で働かざるを得なくなる。そうなれば、支援から遠ざかる分だけ、危険性ははるかに高まる」という。
こうした懸念はあるものの、困難な状況下、性風俗業のおかげで経済的な安定が得られたとマーサさんは語る。
「この仕事がなければ切り抜けられないと思う」
(Beatrice Tridimas記者 翻訳:エァクレーレン)
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