最新記事

追悼

アベノミクスの生みの親が明かす安倍晋三の「リベラル」な一面

MOURNING THE REAL ABE SHINZO

2022年9月28日(水)11時20分
浜田宏一(元内閣参与、米エール大学名誉教授)
安倍晋三、浜田宏一

内閣参与を退任する際に記念撮影した浜田氏と安倍元首相の写真(浜田氏提供) COURTESY OF KOICHI HAMADA

<「あなたは間違っている」と言われたこともあるが、今はそのとおりだと思う――安倍政権で経済顧問を務めた浜田宏一氏が寄稿>

7月の安倍晋三元首相の葬儀の時、斎場に至る通りは花を持った人々で埋め尽くされた。今でも安倍元首相暗殺のショックは生々しい。

アメリカでは銃によって毎年何万人もの命が失われているが、日本の銃による死者数は年間1桁にとどまる。

安倍氏を悼む人々の多くは、アベノミクスと呼ばれる彼の経済政策によって初めて仕事を得た若い労働者たちだったろう。約8年にわたった第2次安倍政権において、日本は約500万人の新規雇用を純増させた。

私が安倍氏に初めて会ったのは2001年、北朝鮮訪問を予定していた小泉純一郎首相の下で彼が官房副長官を務めていた時だ。安倍氏の北朝鮮に対する強い姿勢は政権内で際立っていたが、その怒りは人道的な正義感に満ちていた。

政治・外交的な強硬姿勢ゆえ、安倍氏は自民党のタカ派と言われた。特に台湾に対する中国の要求には断固として抵抗するつもりだった。

今年4月に発表した英語の論文では、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の「戦略的曖昧さ」という概念に疑念を示し、アメリカは明確に台湾防衛の姿勢を示すべきだと警告した。

「ウクライナとロシアのように、台湾と中国の間には大きな軍事力の差がある」と、安倍氏は指摘した。さらに台湾に侵攻した場合、中国は国際法上の戦争ではなく国内紛争だと弁解できる。

このように中国が台湾侵略の誘惑に駆られる可能性が多いので、安倍氏はアメリカが「戦略的曖昧さ」に頼らず、台湾を守るとストレートに宣言するべきだと主張した。ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問に一脈通じるものがある。

安倍氏は当然のことながら保守的な政治家と評価されていた。私は安倍氏から内閣参与就任の依頼を受けたとき、思わず「私のほうが総理よりリベラルのように思いますが」と言ってしまった。彼はにっこり笑って、私を指名した。

そして結果はうまくいったように思う。経済問題に関して彼は私が考えていた以上にリベラルであり、もしかしたら私よりリベラルかもしれなかった。

彼は2度目の首相になる直前、私とのインタビューでこう話していた。「私は経済政策を勉強するため、最初は金融問題よりも社会保障の勉強をした」。社会保障はリベラル派の好むテーマである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

VW、車両価格を5月いっぱい据え置きへ 関税巡る懸

ワールド

石破首相、日米閣僚級協議の推移見て「最も適切な時期

ビジネス

日米関税協議、為替は議論せず 月内に次回会合=赤沢

ワールド

世銀総裁、途上国に関税引き下げ呼びかけ 世界経済下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 10
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中