予備役動員でプーチンが反故にした「戦争の条件」
Putin's Speech Abandons Years-Long Political Strategy
プーチンが予備役を一部招集すると言ったとたんに吹き出した反戦デモ(9月21日、モスクワ) REUTERS
<軍事作戦は国民生活に影響を与えないように行う──それが、大統領就任初期にプーチンが打ち出し、今まで守ってきたプーチンの国内安定策だった>
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナにおける「特別軍事作戦」に国民を「部分的に動員」する意向を発表した。
プーチンは9月21日に行ったテレビ演説で、予備役を部分的に動員を実施する大統領令に署名したと語った。これまでウクライナへの軍事侵攻は「国民生活に影響を与えない」形で進める方針だったが、追い詰められたプーチンはついに方針転換を余儀なくされた、と多くの観測筋が見ている。
2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍は予想外に強固なウクライナ軍の抵抗に手を焼いてきた。何万人もの兵士が死亡し、巨額の装備を失い、戦力は大幅に低下。一時的に支配地域を拡大できても、すぐに押し返されるありさまだ。西側の最大級の制裁もロシア経済をじわじわ締め付け、ロシアの伝統的な友好国である中国とインドでさえ、ロシアに勝ち目なしとの見方を強めている。
こうしたなか、動員令の発動はロシアの世論を大きく揺さぶりそうだ。
プーチン自身が進めた改革に逆行
プーチンが政権の座に就いた2000年当時、ロシアはまだソ連崩壊後の大混乱を引きずっていた。当時89あった共和国や州などの地方行政組織はまとまりを欠き、ロシア連邦は国家の体を成していなかった。大統領就任後の数年間でプーチンは行政改革を断行、地方官僚の汚職を一掃し、中央集権的な体制を築く一方、経済では国家主導でエネルギーなどの輸出産業を振興し、原油価格高騰の追い風を受けて高度経済成長を達成。ロシアの国家的アイデンティティーを打ち固めた。
プーチンは2006年の教書演説で、国防は新世代の兵器と職業軍人を主体とする近代的な軍隊がこれを担うと明言した。プーチンはエリツェン前政権が始めたチェチェンへの軍事介入を一段とエスカレートさせたが、教書演説の文言とおり、戦闘に駆り出されたのはほぼ例外なく職業軍人だけだった。
以後2年足らずで、プーチンは軍事面でも数々の改革を実施した。ロシア軍の兵力を100万人に削減、兵站や補佐的な業務は民間に移管し、予備軍の編成を大々的に改編。兵役期間を2年から1年に短縮するなど徴兵制度も大幅に改め、志願兵を増やすために軍法も改定した。
だが、今回プーチンが署名した大統領令は、第2次大戦後に初めて出された国民動員令で、プーチン自身がこれまで進めてきた改革を全てひっくり返すことになりかねない。