最新記事

ロシア

予備役動員でプーチンが反故にした「戦争の条件」

Putin's Speech Abandons Years-Long Political Strategy

2022年9月22日(木)19時48分
ニック・レイノルズ

プーチンが予備役を一部招集すると言ったとたんに吹き出した反戦デモ(9月21日、モスクワ) REUTERS

<軍事作戦は国民生活に影響を与えないように行う──それが、大統領就任初期にプーチンが打ち出し、今まで守ってきたプーチンの国内安定策だった>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナにおける「特別軍事作戦」に国民を「部分的に動員」する意向を発表した。

プーチンは9月21日に行ったテレビ演説で、予備役を部分的に動員を実施する大統領令に署名したと語った。これまでウクライナへの軍事侵攻は「国民生活に影響を与えない」形で進める方針だったが、追い詰められたプーチンはついに方針転換を余儀なくされた、と多くの観測筋が見ている。

2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍は予想外に強固なウクライナ軍の抵抗に手を焼いてきた。何万人もの兵士が死亡し、巨額の装備を失い、戦力は大幅に低下。一時的に支配地域を拡大できても、すぐに押し返されるありさまだ。西側の最大級の制裁もロシア経済をじわじわ締め付け、ロシアの伝統的な友好国である中国とインドでさえ、ロシアに勝ち目なしとの見方を強めている。

こうしたなか、動員令の発動はロシアの世論を大きく揺さぶりそうだ。

プーチン自身が進めた改革に逆行

プーチンが政権の座に就いた2000年当時、ロシアはまだソ連崩壊後の大混乱を引きずっていた。当時89あった共和国や州などの地方行政組織はまとまりを欠き、ロシア連邦は国家の体を成していなかった。大統領就任後の数年間でプーチンは行政改革を断行、地方官僚の汚職を一掃し、中央集権的な体制を築く一方、経済では国家主導でエネルギーなどの輸出産業を振興し、原油価格高騰の追い風を受けて高度経済成長を達成。ロシアの国家的アイデンティティーを打ち固めた。

プーチンは2006年の教書演説で、国防は新世代の兵器と職業軍人を主体とする近代的な軍隊がこれを担うと明言した。プーチンはエリツェン前政権が始めたチェチェンへの軍事介入を一段とエスカレートさせたが、教書演説の文言とおり、戦闘に駆り出されたのはほぼ例外なく職業軍人だけだった。

以後2年足らずで、プーチンは軍事面でも数々の改革を実施した。ロシア軍の兵力を100万人に削減、兵站や補佐的な業務は民間に移管し、予備軍の編成を大々的に改編。兵役期間を2年から1年に短縮するなど徴兵制度も大幅に改め、志願兵を増やすために軍法も改定した。

だが、今回プーチンが署名した大統領令は、第2次大戦後に初めて出された国民動員令で、プーチン自身がこれまで進めてきた改革を全てひっくり返すことになりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中