最新記事

災害

大洪水に襲われたパキスタン、復興に苦難 家も仕事も押し流され

2022年9月7日(水)16時59分
洪水で救助される人々

パキスタンでは雨が数カ月降り続き、春の異常な高温で氷河の溶解が加速したことが洪水を引き起こし、国土の3分の1が水没、3300万人が被害を受けた。SkyNews / YouTube

パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州では8月下旬、増水したスワート川が流れを変えてナイーム・ウラーさん(40歳)の村に怒濤のごとく流れ込み、ウラーさんと親族の家屋14戸を押し流した。

ウラーさんは5ヘクタールの借地で栽培していたサトウキビも壊滅。職と家を失い、種や肥料を買うために借りた資金は返済の見込みが立たない。

「人生をゼロから始めるしかない」とウラーさん。「全てをなくした。人生最大の試練に向き合う力を与えてくださいとアラーに祈ることしかできません」

雨が数カ月降り続き、春の異常な高温で氷河の溶解が加速したことが洪水を引き起こし、パキスタンは国土の3分の1が水没、3300万人が被害を受けた。

災害当局によると、1300人余りが死亡し、被害額は推計100億ドル。被害を受けた住宅は160万戸、破損した道路は総延長5000キロメートル、死んだ家畜は70万頭に上る。

数百万の家庭が自宅や所持品などを失い、多くの家庭は防水シートを張った仮のすみかを置くための乾いた場所を探すのにすら苦労している。

主要な道路や橋は流され、支援活動は進まず、当局は一部の地域で費用のかさむヘリコプターを主な輸送手段に据え、限定的な緊急支援を展開せざるを得ない状況となっている。

最も被害が大きい南西部バルチスタン州のアワラン地区では、洪水が地平線まで広がっている地域もあり、貧困層の住宅の多くが破壊された。

首都イスラマバードの大学生ディシャド・ブルチャさん(21)は自分の村に帰省していて被害に遭った。村は7月に洪水に見舞われ、ブルチャさんの家は流され、隣人が亡くなった。

ブルチャさんによると、たまった水が電線に触れていて感電の恐れがある。主要都市カラチと結ぶ橋が通行できず、物資を運ぶ主要ルートは切断されたままだ。

ヘリコプターがコメや豆の袋を投下するが、「量が少なすぎる」と、ブルチャさんは言う。台所も乾いたまきもなく、村の住人は料理ができないと、途切れがちの電話で訴えた。「多くの住民が怒っているが、ほとんどの人はただ無力だと感じている。助けてくれる人はいない。見捨てられている」

届かぬ支援

パキスタンは多額の負債を抱えている。国際的な援助機関も世界中から寄せられる支援要請への対応で既に手いっぱいになっており、パキスタンの家庭は復興に必要な費用の多くを自分で賄わなければならないかもしれない。

カイバル・パクトゥンクワ州の災害当局者によると、同州の現行の政策で農民は作物や果樹園の被害に対して1エーカーあたり5000ルピー(23ドル)の補償を受けることが可能で、1家庭あたりの支援額は最大5万ルピーとなっている。被害額の詳細な算定が行われれば補償額は引き上げられる可能性がある。

また、州政府は家屋の被害に対して1戸あたり最大1370ドルの補償を行うと発表。7月以降、救助・救援活動に17億5000万ルピー(790万ドル)を充てたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に今年最大規模の攻撃、8人死亡・70

ビジネス

日本国債の残高9年ぶり圧縮、低利回り債入れ替えポー

ビジネス

独IFO業況指数、4月は86.9 予想外の上昇

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、第1四半期は400億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中