最新記事

ロシア

「ゴルバチョフって奴は分かりにくい男だよ」──「敗軍の将」の遺産とは?

Gorbachev's Disputed Legacy

2022年9月5日(月)13時27分
ウラジスラフ・ズボーク(歴史学者)

NW_GCF_04-20220905.jpg

右からブッシュ米副大統領、レーガン米大統領と(85年)。肩書はいずれも当時 APIC/GETTY IMAGES

歴史の審判を受け入れる

冷戦終結のパートナーであるロナルド・レーガン米大統領はゴルバチョフの真摯な姿勢に打たれ、後に友人となった。後任のジョージ・ブッシュは当初は不信感を抱いていたが、その後は米ソの交渉を進め、ソ連軍を中欧から撤退させた。

ゴルバチョフは「統合された自由なヨーロッパ」の理念に賛同し、ソ連を含む「欧州共通の家(共同体)」の建設さえ提案した。ベルリンの壁が崩壊し、ソ連圏が雪解けのように消えていくことを、歴史の審判として受け入れた。

そのとき彼はソ連と世界の新しい道を切り開き、同時に歴史は彼と彼のレトリックを置き去りにした。ソ連の終焉を告げる鐘が鳴り響いていた。

ドイツはNATOの枠組みの中で統一を目指して一気に動きだし、ゴルバチョフは苦境に立たされた。そんなときにジェームズ・ベーカー米国務長官(当時)が、「NATOは1インチたりとも東に拡大しない」と口約束をした。ゴルバチョフは書面などで確約を取ることはせず、この「約束」は後年、ロシアとNATOの間で大きな論争を巻き起こすことになる。

90年秋、ゴルバチョフは東西冷戦を終結させた功績などを評価されてノーベル平和賞を受賞した。

彼はソ連の経済および政治体制を大幅に自由化したが、多くの市民と同じように、資本主義市場に対する恐怖心や、失業も民間企業も知らない低所得者層に資本主義市場がもたらすものに対する不安も抱えていた。

結局のところ、ゴルバチョフの改革は発展し得る市場経済を創出することなく、古い体制を不安定にした。ただでさえ悲惨だったソ連の生活水準は、さらに低下した。

こうした状況を、本人は一時的な困難だと軽視した。しかし、最後には、ゴルバチョフの権威は経済不況の餌食になった。頭角を現した政治局の異端児ボリス・エリツィンは「ペレストロイカの失敗」からの脱却を掲げ、分権化されたソビエト連邦の中でロシアの完全な主権を主張した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中