最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ、新学期からの学校再開 ロシアの攻撃に備えシェルター建設など難題も

2022年9月4日(日)10時17分
ロイター
ウクライナ・キーウ近郊イルピンで、ロシア軍による攻撃を受けた学校の壁

ウクライナ全域では当局がロシア軍によって破壊された学校施設の修復や、防空シェルターの建設を進めている。約600万人に上る学齢児童が、9月からの新学期にオンラインないし対面方式で授業に戻れるようにするためだ。写真はキーウ近郊イルピンで、ロシア軍による攻撃を受けた学校の壁。10日撮影(2022年 ロイター/Gleb Garanich)

ウクライナ全域では当局がロシア軍によって破壊された学校施設の修復や、防空シェルターの建設を進めている。約600万人に上る学齢児童が、9月からの新学期にオンラインないし対面方式で授業に戻れるようにするためだ。

戦争が及ぼす社会的・経済的影響は長期にわたる。ウクライナ最大のオンライン学習プラットフォーム「プロメテウス」の共同創業者も「ロシアの侵略はウクライナの教育システムに甚大な影響をもたらすだろう」と認めた。そうした中で政府としても、早期の学校再開は最優先課題の1つと言える。

今はロシア軍に制圧されている東部ルガンスク州の都市・リシチャンスク。中学生の息子が通っていたここの学校が爆撃で跡形もなくなったことを思い浮かべるたびに涙するスビトラーニャさんは、それでも息子が勉強する場を確保する決意だ。

彼の新たな学びの場となるキーウ近郊のイルピンにある学校を訪れたスビトラーニャさんは「この地でわたしたちは、より良い生活を送れると思う。最も大事なのは子どもが学習できることだ」と言い切った。

ウクライナ教育科学省によると、2月24日にロシアが侵攻して以来、砲撃ないし爆撃を受けた国内の教育施設は2300カ所近くに達し、286カ所が完全に破壊された。発表された子どもの死者は350人強、負傷者は586人だが、実際はずっと多い可能性がある。

政府が学校再開を積極的に推進するのは、それによって女性が職場に復帰できるというのも理由の1つだ。しかし、内務省が国内の保育園から大学まで2万6000カ所の教育施設を調査した結果、対面授業に不可欠な防空シェルターか、それに類する防護設備を備えているのは全体の41%にとどまっていることが分かった。

この数字は数カ月前に比べれば400%も上がっており、近いうちにもっと多くのシェルターが完成してもおかしくない。とはいえ、前線付近の普及率はなお低い。例えば、ロシア軍が最近砲撃を強化している南部の都市・ミコライウでは、シェルターがある学校は16%に過ぎない。

非政府組織(NGO)セーブ・ザ・チルドレンのウクライナ担当ディレクター、ソニア・クーシュ氏の話では、その結果として数百万人の児童や若者がリモート学習の継続を強いられ、さらに10代の退学率の高さなど新型コロナウイルスのパンデミックに伴う2年間の学校閉鎖で起きた問題が一層深刻になっている。

国家の未来

学業の中断は、その後の人生で得られる所得の低下など長期的にさまざまなマイナスをもたらす。世界銀行は今年2月、新型コロナウイルスに関連して世界中で学校が7カ月間休みとなったことで、迅速な対策が講じられなければ「学習面での貧困」に陥る生徒の比率が約70%まで高まると見積もった。

世銀の東欧地域諸国担当ディレクターは「児童が教育を受けられないと、それはずっと後まで恒常的な負の遺産となり、取り返すのにかかる時間と労力、対価は増大するだろう」と指摘した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中