最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ、新学期からの学校再開 ロシアの攻撃に備えシェルター建設など難題も

2022年9月4日(日)10時17分
ロイター

ウクライナはインターネットの接続環境が抜群だが、クーシュ氏によると、特に前線地域の教育当局はもっと多くのノートパソコンや各種端末が欲しいと訴えている。

さらに対面授業が再開されたとしても、生徒は環境に順応するための追加的な支援が必要になるし、一部では分散登校を迫られるかもしれない。

イルピンの学校の責任者はロイターに、校内にある防空シェルターの収容可能人数は300人と、全校生徒2000人の一部だけだと明かした。

西部にあるリビウ国立大学のメリニク学長は、戦争によって生じた学習期間の空白は「ウクライナにとって悲劇だ」と嘆きつつ、大学側は教員がオンライン授業をより円滑に進めるのを支援するプログラムを設け、何千人もの学生は自発的に避難民の手助けに従事していると述べた。

ウクライナ元財務相のナタリー・ジャレスコ氏は、教育を復活させれば、戦争後欧州各地に逃げ出した何百万人もの女性や子どもたちの帰国を後押ししてくれると主張。「彼らは将来の労働力であり、実質的に国家の未来そのものだ」と語った。

戦争がもたらしたトラウマ

子どもたちが受けた心的外傷(トラウマ)への対応も、大きな課題になる。

臨床心理士のオレーナ・ロマノワさんは、リビウに滞在する子どもを含めた避難民たちに寄り添い、色とりどりの動物のぬいぐるみを使って子どもたちの死や破壊の記憶を癒そうとしている。

ロマノワさんは「何はともあれ時間は過ぎていく。われわれは笑わなければならない。(彼らの)多くの記憶はこのおぞましい戦争に関するものだろうが、われわれは彼らの人生をより明るくしようと努力している」と説明した。

ウクライナのNGOのBASE UAは美術館などのアートを利用し、避難している子どもたちが持つ戦争の記憶を薄めようとしている。

ロシアが制圧したヘルソン州オレシュキーから逃げてきたある14歳の少女は、BASE UAが企画したカルパチア山脈でのサマーキャンプのおかげで、戦争の現実からほっと一息つけたと喜んだ。だが、やはり故郷の恋しさは募る。「クラスメートとのやり取りがほとんどなくなってしまったと感じている。地元に帰って学校で彼らと会いたいし、何もかもが普通に戻ってほしい」と訴えた。

(Andrea Shalal記者、Ivan Lyubysh-Kirdey記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中