最新記事

イギリス

トラス英首相、エネルギー費対策発表 家庭の光熱費上限を年間40万円に

2022年9月9日(金)08時41分
トラス英首相

トラス英首相(写真)は、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド程度に抑える計画を発表した。ウクライナ戦争による経済的ショックを抑える狙いがあるが、政府には約1500億ポンドの負担増になるとみられる。7日撮影(2022年 ロイター/John Sibley)

トラス英首相は8日、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド程度(=約414000円)に抑える計画を発表した。ウクライナ戦争による経済的ショックを抑える狙いがあるが、政府には約1500億ポンド(=約24兆8,632億円)の負担増になるとみられる。

家庭のエネルギー料金が4倍近くに跳ね上がり、リセッション(景気後退)に直面する中、トラス氏は消費者と企業を守るために迅速かつ大胆に行動すると表明した。

議会で「今年の冬から来年冬にかけて国を支え、二度と同じ状況に陥らないよう物価高の根本原因に対処している」と強調。「大胆になる時だ。われわれは世界的なエネルギー危機に直面しており、コストのかからない選択肢はない」と訴えた。

今回の計画では、平均的な家庭のエネルギー料金は2年間、年間2500ポンド程度に抑えられ、10月に予定されている80%の値上がりを回避することになる。

政府はインフレ率を最大5%ポイント抑制できるとみている。

ガスの卸売価格は変動が激しいため、トラス氏はこの措置のコストを明らかにしていない。費用は政府の借り入れで賄われる。クワーテング財務相が月内に公表する財政報告で明らかになる見込み。

エコノミストは政府の借り入れ額が1000億ポンド以上増える恐れがあるとみている。

ドイツ銀行はエネルギー費対策と減税計画による財政負担が1790億ポンドに上る可能性があると指摘した。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受けた同国の記録的な公的支出の半分程度に相当する。

一方、JPモルガン・アセット・マネジメントのストラテジスト、ヒュー・ギンバー氏は「財政出動の規模は大きいが、家計や企業が直面している問題も同じぐらい大きい」と指摘する。

欧州のエネルギー価格は新型コロナ禍からの回復で上昇し始め、ロシアのウクライナ侵攻以降急騰している。

家計の年間エネルギー代の平均は4月に54%値上がりして1971ポンドとなり、10月には80%上昇して3549ポンドに達する見通し。

インフレ率は7月の10.1%と1982年2月以来の高水準を記録した。イングランド銀行(英中央銀行)は、10月のインフレ率が13%を超えると予想している。政府は今回の措置がインフレ率を最大5%ポイント押し下げると期待する。

政府の発表を受けて、エコノミストは来年初め頃に見込まれるインフレ率のピークの予想水準を下方修正した。特に予想値が高かったシティは、17.4%から11.7%に引き下げた。

また、コンサルタント会社パンテオン・マクロエコノミクスは、英経済は景気後退(リセッション)入りを辛うじて回避できるとの見方を示した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中