3つの矛盾が示す、ミャンマー軍事政権の邦人拘束と「ずさん捜査」
Slipshod Accusations
久保田の解放を求める在日ミャンマー人ら Issei Kato-REUTERS
<「まずは入国日から間違っている」──ドキュメンタリー作家・久保田徹の収監が長期化するなか、拘束経験のある日本人ジャーナリストが当局の矛盾を指摘。国際的孤立を深め、暴走する国軍と粘り強い交渉を続ける大使ら>
「僕の罪は何ですか?」
ミャンマーで拘束された久保田徹(26)は、拘束後23日目で初めて認められた日本大使館員との電話で、自分にかけられた嫌疑について尋ねたという。
これはミャンマー当局が起訴された人間に十分な説明をしていないことを物語る。拘束から1カ月が過ぎ、公正な法手続きを無視したずさんな捜査が行われていることが、次第に明らかになってきた。
久保田は慶応大学在学中からミャンマーを十数回にわたって取材し、数々の短編作品を発表してきたドキュメンタリー作家だ。ロンドンの大学院で映像制作を学び、気さくな人柄で取材先の懐に飛び込み信頼を得るのが得意だった。
今回はあるミャンマー人を主人公にした作品を撮るために渡航。関係者によると、7月30日に最大都市ヤンゴンで短時間で解散する「フラッシュモブ型デモ」を撮影し、その直後に駆け付けた捜査当局によって拘束された。
クーデターにより誕生した国軍の統治機関「国家行政評議会」のゾーミントゥン報道官は8月17日の記者会見で、観光ビザで入国した入国管理法違反とデモに参加した刑法505条違反(共に起訴済み)に加え、イスラム系少数民族ロヒンギャについてのドキュメンタリーを制作してデマを広めた電子通信に関する法律の違反容疑で捜査中と主張。
「法に従い判決を下す」と厳しい態度を示した。しかし国軍の発表には、少なくとも3つの矛盾点が指摘できる。
1つ目は入国日。国軍側の文書や会見での発表では、彼が観光ビザで入国したのは7月1日。しかし友人らの調査によると、空路で入国したのは14日のはずである。2日に東京で食事を共にした友人もおり、1日に入国したというのは明らかに誤りだ。
次に、デモ参加の証拠として報道官が示した、久保田ら4人が横断幕を持って立つ写真。逮捕された4人しか写っていないことなどから「逮捕後に捜査当局が撮影したものではないか」(ミャンマーのベテラン記者)との見方が根強い。