ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果
TRADING WITH THE ENEMY
ソネンフェルドが所長を務めるエール大学の経営者リーダーシップ研究所は1300社以上を対象に、ロシアからの撤退度を6段階で評価。これまでのところ、300社以上が完全に撤退し、約170社がロシア事業の一部を「縮小」した。
最も多かったのが、事業は停止したが再開する選択肢も残した「一時停止」で500社近く。新規投資はしないが既存事業は続けている「様子見」の企業は160社だった。
従来の事業をそのまま維持し、撤退や規模縮小の計画も明らかにしていない「継続」に該当した企業は240社だった。この中には外食チェーンのハードロックカフェや医療機器のメドトロニックといったアメリカ企業が含まれる。
ソネンフェルドによれば、対応が特に早かったのは専門的なサービスを提供する企業や石油大手、テクノロジー大手だ。
「この3つのジャンルが最初に動いたことにはびっくりした。奇妙なことに、ファッションや香水、消費財、カジュアルダイニング、果ては一般大衆の感情を読むことを得意としているはずの広告代理店は驚くほど出遅れた」
5月に発表した論文でソネンフェルドらは、ロシアからの撤退は道義的に正しいだけでなく、ビジネス面でも利点があると主張した。撤退して以降、そのコストを埋め合わせるに足るほど株価が上昇した企業がある一方で、事業継続を選んだ企業の株価は低迷しているというのだ。
特に「ロシア事業の売却を発表したハイネケン、シェル、エクソンモービル、カールスバーグ、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、ソシエテ・ジェネラルの6社では、売却資産の価値の総計をはるかに上回る富が生み出された。さらに驚くべきは、6社の株価はいずれもロシアからの撤退を発表した後に上昇したが、多くの場合、発表の前には株価は急落していた」と言う。
イギリス王立国際問題研究所の客員研究員ティモシー・アッシュに言わせれば、ロシア事業を継続したところで先はない。「見通しは暗い。よほど愚かでなければ、地政学的な話が根本的に変わったことは分かるはず。出口戦略をどうするかだけの話だと私は思う」とアッシュは言う。
だが経営に実際に携わっている人々にとっては、話はそれほど単純ではない。スウェーデンの通信大手テリアはロシアなど権威主義体制の国々でも事業を行っている。テリアの上級副社長、レイチェル・サムレンはそうした国々での事業は「やめればいいという話ではない。非常に複雑な問題がある」と言う。