ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果
TRADING WITH THE ENEMY
ILLUSTRATION BY ALEX FINE
<政府よりも企業による制裁が効き、撤退した企業の株価が上昇するという結果が。しかし、経済規模の大きな中国が相手なら、違う予測も。現在の経済的な痛みを覚悟してでも、未来に投資するとは?>
ロシアに進出している外資系企業で、ウクライナ侵攻が始まった直後に撤退を表明した企業はそれほど多くはなかった。ロシア進出企業の動向を追跡しているエール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授の推計では当初、撤退を発表した企業は「数十社」だったと言う。
だが侵攻への国際社会の反発が高まるなかで、程度の差こそあれロシアでの事業を縮小した企業は1000社を超える。
道義的な問題だけに目を向ければ撤退一択だったとしても、企業の立場から言えば話はもっと込み入っている。企業にとって、ロシアからの撤退や事業の縮小は複雑かつ時間のかかる厄介な問題だ。
言うまでもなくカネの問題もある。ロシアの国営エネルギー大手ガスプロムとの合弁事業から撤退した英エネルギー大手シェルは今年1~3月期に42億ドル超の損失を計上した。マクドナルドは4~6月期に撤退に伴うコストを12億ドル計上した。
ロシアから撤退する企業がさらに増えれば、侵攻を思いとどまるほどの痛みをロシアに与えることになるのだろうか。そしてそれは、ロシア経済や世界経済にどれほどのコストを強いることになるのだろう?
アメリカ政府は近年、国際問題の解決を図るための武器として経済制裁を多用するようになっている。だがソネンフェルドによれば、企業が自発的に行う「自主制裁」の効果のほうが強力だ。
「ビジネスの自発的ボイコットは(政府の)制裁よりずっと規模が大きい」とソネンフェルドは言う。「政府が行う制裁とは別に、企業のこうした行動だけでロシアのGDPの46%が影響を受けている」
株価上昇でコストは相殺?
ソネンフェルドによれば、参考になるのがアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカからの「ダイベストメント(投資の撤退)」だ。アパルトヘイト撤廃に貢献した南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教とかつて話をした時のことをソネンフェルドはこう振り返る。
「(政府の)制裁が助けになるのは確かだが、象徴的にも実質的にも大きな影響をもたらしたのは(企業の)自発的なビジネスボイコットだったと彼はみていた」