最新記事

経済制裁

ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果

TRADING WITH THE ENEMY

2022年8月24日(水)13時49分
デービッド・ブレナン(本誌記者)
プーチン

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<政府よりも企業による制裁が効き、撤退した企業の株価が上昇するという結果が。しかし、経済規模の大きな中国が相手なら、違う予測も。現在の経済的な痛みを覚悟してでも、未来に投資するとは?>

ロシアに進出している外資系企業で、ウクライナ侵攻が始まった直後に撤退を表明した企業はそれほど多くはなかった。ロシア進出企業の動向を追跡しているエール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授の推計では当初、撤退を発表した企業は「数十社」だったと言う。

だが侵攻への国際社会の反発が高まるなかで、程度の差こそあれロシアでの事業を縮小した企業は1000社を超える。

道義的な問題だけに目を向ければ撤退一択だったとしても、企業の立場から言えば話はもっと込み入っている。企業にとって、ロシアからの撤退や事業の縮小は複雑かつ時間のかかる厄介な問題だ。

言うまでもなくカネの問題もある。ロシアの国営エネルギー大手ガスプロムとの合弁事業から撤退した英エネルギー大手シェルは今年1~3月期に42億ドル超の損失を計上した。マクドナルドは4~6月期に撤退に伴うコストを12億ドル計上した。

ロシアから撤退する企業がさらに増えれば、侵攻を思いとどまるほどの痛みをロシアに与えることになるのだろうか。そしてそれは、ロシア経済や世界経済にどれほどのコストを強いることになるのだろう?

アメリカ政府は近年、国際問題の解決を図るための武器として経済制裁を多用するようになっている。だがソネンフェルドによれば、企業が自発的に行う「自主制裁」の効果のほうが強力だ。

「ビジネスの自発的ボイコットは(政府の)制裁よりずっと規模が大きい」とソネンフェルドは言う。「政府が行う制裁とは別に、企業のこうした行動だけでロシアのGDPの46%が影響を受けている」

株価上昇でコストは相殺?

ソネンフェルドによれば、参考になるのがアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカからの「ダイベストメント(投資の撤退)」だ。アパルトヘイト撤廃に貢献した南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教とかつて話をした時のことをソネンフェルドはこう振り返る。

「(政府の)制裁が助けになるのは確かだが、象徴的にも実質的にも大きな影響をもたらしたのは(企業の)自発的なビジネスボイコットだったと彼はみていた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中