最新記事

北朝鮮

愛と慈悲に満ちた、心優しい将軍様へ──ソフト路線にイメチェン中の金正恩

A New Public Persona

2022年8月22日(月)13時25分
エマ・ナイモーン(朝鮮半島研究者)

しかし、多くの北朝鮮ウオッチャーは以前から、北朝鮮の開放と現体制の刷新は私たちが生きている間に起こり、その変化は内部からもたらされるだろうと言い続けている。この20年、北朝鮮の人々は法律をかいくぐって貿易や情報にアクセスし、体制からの自立を手にしてきた。

しかし、パンデミックで状況は変わった。新型コロナは、国民を守るために国境を封鎖する口実を政権に与え、外国の情報が遮断されただけでなく、国民の自立のための資源も封鎖されたのだ。

金正恩はこれまで見て見ぬふりをし、時には自由市場貿易を奨励して国民をなだめてきたが、その手段もなくなった。そして、国民の管理に本腰を入れ、偉大な後継者像を更新しようとしている。

では、国営メディアは指導者の進化するペルソナをどのように伝えているのだろうか。19年に金正恩は新年演説の演出を変えた。厳かな演壇から説教するのではなく、肘付きのソファにゆったりと座り、カメラと目線を合わせて穏やかに語り掛けたのだ。20年には軍事パレードの演説で国民の苦境に涙を流し、支援が足りていないと謝罪した。

しかし、21年になると、金正恩を父親のような存在というだけでなく、友人として描こうとする傾向が一気に高まった。ここ数年、「敬愛する金正恩同志」という呼称は国営メディアで年間数十回から数百回使われてきたが、21年は4000回以上に上った。「総書記」「国務委員長」の称号を得た後も、「同志」という言葉が、金を地に足の着いた人間らしい存在にしている。

金正恩の妹で朝鮮労働党副部長の金与正(キム・ヨジョン)は8月に演説の中で、金正恩が最近、「高熱にひどく苦しみ」ながら「人民への責務を考え続けた」と明かした。

これは、金正恩が国民の苦しみを理解していると主張すると同時に、死を免れない存在として定義している。過去の指導者は常に神に近い存在であり、不死身で全能だとされてきた。

支配者への崇拝を醸成

ただし、金正恩政権は「同志」の愛と慈愛に満ちたイメージを前面に押し出すのと並行して、人権を脅かし、国民をさらなる苦境に追い込むような強権的な政策を導入している。例えば、医薬品の違法取引は死刑に処し、中国との国境に近づく者は無条件で銃撃すると発表した。また、外国からの支援を立て続けに拒否している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

3月鉱工業生産速報は前月比-1.1%=経産省(ロイ

ビジネス

小売業販売3月は前年比3.1%増、予想下回る

ビジネス

金価格は3年以内に5000ドルに迫る見通し=ポール

ビジネス

スタバ、四半期世界売上高が予想以上に減少 米景気不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中