最新記事

ウクライナ情勢

最悪の原子炉事故がウクライナで再び? スタッフ退去報道で高まる緊張

2022年8月22日(月)14時30分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)
ザポリッジャ原発を警備する兵士

ザポリッジャ原発を警備する兵士。制服の胸にはロシアの国旗(8月4日) ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

<ザポリッジャ原発を占拠するロシア軍がスタッフを退去させたとの報道から、人為的な原発事故を起こす前触れではないかという不安が高まっている>

ウォロディミル・プラシヒン(61)は、30年以上前の恐ろしい記憶をありありと思い出さずにいられない。

プラシヒンが暮らすウクライナ南部の都市ニコポリは、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるザポリッジャ(ザポリージャ)原発までわずか6~7キロほど。ドニプロ(ドニエプル)川の対岸にそびえる原発施設がはっきり見える。

チョルノービリ(チェルノブイリ)原発で世界史上最悪の原発事故が発生した2年後の1988年、プラシヒンは兵士としてチョルノービリに滞在した。4カ月間の任務を終えて戻ると、直ちに入院させられたという。

「息をするのも難しく、ほとんど体も動かせなかった」と、プラシヒンは振り返る。「いま再び同じことが起きようとしている。いや、今度のほうがもっと大変なことになる。あの恐怖は、経験していない人には分からないだろう」

プラシヒンはどこへ行くときも、甲状腺を被曝から守るためのヨウ素剤を手放さない。しかし、激しい恐怖を感じつつも、ニコポリから脱出するつもりはない。チョルノービリの現場を知るプラシヒンは、市当局が編成したボランティア避難チームにとって不可欠な存在なのだ。

チョルノービリ原発事故の記憶は、ニコポリの住民に重くのしかかっている。それでも、10万人余りの住民のおよそ半分は、原発事故への不安とロシア軍のミサイル攻撃にさらされながらも、今も町にとどまっている。

ザポリッジャ原発をめぐる懸念がここ数日一挙に高まっている。ロシア側がウクライナによる「偽旗作戦」に関して警告を発したことがきっかけだ。ウクライナ軍が原発を攻撃し、責任をロシア側になすり付けようとするのではないか、というのだ。ロシアはウクライナ戦争でたびたび、自らが攻撃を仕掛ける前にこの種の発表を行ってきた。

実際、この春以降ザポリッジャ原発を占拠しているロシア軍が、最近になってスタッフを退去させたという報道もある。この情報を受けて、ロシア軍が人為的に原発事故を起こすつもりではないかという不安が高まっている。

ザポリッジャ市当局は最近、原発事故に備えた避難・救護訓練を繰り返している。一方、ニコポリ市当局は、現時点で市民の不安をあおるべきでないと考えている。

それでも、放射線レベルが所定の水準(非公表)を越えた際の避難所と避難ルートは既に決めてある(具体的な避難ルートは、当日の風向きによって変わる)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中