残虐行為を目撃し、飢餓と恐怖に耐えた子供の心と体に「戦争後」に起きること
THE CHILDREN OF WAR
今回の戦争でその供給は激減し食糧価格が高騰、世界的なサプライチェーンも大混乱に陥っている。このため、この地域の飢餓は一段と悪化する恐れがある。
もちろんウクライナの戦闘地帯では、ウクライナの子供たちが同じように悲惨な状況に置かれている。この地に取り残された数百万人に援助物資を届けるのは至難の業だ。
ロシア政府とウクライナ政府は事実上交渉をストップしているから、外交的な打開策は見込めない。援助機関は、こうした地域に食料や医療品の備蓄があることを祈るしかない。
今年5月、激戦地マリウポリの広大な製鉄所の地下に避難していた市民の一部が、ICRCの手配したバスで250キロほど西に位置する街ザポリッジャ(ザポリージャ)に退避したことが報じられた。
ザポリッジャには、マリウポリだけでなく、東部のさまざまな地域から避難してくる人たちを受け入れるトランジットセンターが設けられている。
ここでは清潔な衣服と食料と水が支給され、シャワーも浴びることができる。救急車も待機していて、高度な治療が必要な人は、近隣の医療機関に搬送される。栄養の専門家や心理カウンセラーもいて、命からがら逃げてきた人たちを温かく迎え入れ、状況を「静かに」説明する。
だが「多くの子供たちは茫然自失の状態で、何も聞きたがらない」と、ユニセフの緊急対応専門家エリアス・ディアブは語る。「2カ月間地下に隠れていた子供は、『ずっとお日さまを見ていなかった』とポツリと語った。子供たちは皆、何らかのストレスに苦しんでいる」
大人に同伴されていない子供は、特別な支援が必要だ。それ以外の子供と家族のほとんどは、ユニセフなどの援助機関が用意した休憩施設に案内される。
ここで親はお茶を飲みながらくつろぎ、子供たちはおやつをもらい、子供らしく遊び回ることができる。塗り絵やおもちゃが支給されることも多い。
物静かな子供には特に目を光らせる
そんななかでソーシャルワーカーが特に目を光らせるのは、物静かな子供だと、国際NGOプラン・インターナショナルのグローバル人道ディレクターであるウニ・クリシュナンは語る。
トラウマ的な経験をした子供は(大人もだが)、自分の中に引きこもることが多いからだ。「ショックやトラウマは人間の感覚を麻痺させることがある」
想像を絶する破壊と流血と死を見てきた子供たちは、そうした経験を説明する言葉を知らないことも多い。
「沈黙が彼らのストーリーのこともある」と、クリシュナンは語る。「世界を信じられなくなってしまうのだ。筆舌に尽くし難い恐ろしい経験をしてきたのだから」