残虐行為を目撃し、飢餓と恐怖に耐えた子供の心と体に「戦争後」に起きること
THE CHILDREN OF WAR
こうした子供たちが遊びや音楽や工作を通じて自分の気持ちを表現したり、ストレスを発散したり、それを引き出してくれる熟練カウンセラーと話をできる場をつくることは極めて重要だと、クリシュナンは言う。
子供の心は「風船のようなものだ」と彼は言う。「空気を逃がす機会をつくらなければ、破裂してしまう」
だが、ユニセフのディアブは、子供のレジリエンス(再起力)を信じている。現在40代の彼は、10歳になる前にレバノン内戦を経験し、避難民としてあちこち放浪した経験がある。家族と2カ月間避難所で暮らし、ようやく自宅に戻ってみると、壁という壁は弾痕だらけで、窓ガラスは一枚も残っていなかった。
それでも法学の修士号を取得し、今やユニセフに勤務し、有意義で生産的な人生を送れているのは、両親のおかげだと彼は言う。
「両親は、『これから旅行に行くよ。すごく楽しくなる!』と私たちに言い聞かせた」と彼は振り返る。「とても危険な未来が待っていると分かっていたけれど、子供たちができる限り楽しめる状況をつくってくれた」
親の果たす役割は大きい
ディアブの経験は、子供が戦争のトラウマを乗り越える上で、親の果たす役割の大きさを物語っている。
だからユニセフは、戦闘地帯にいる子供を避難させたり、援助物資を届けたりするだけでなく、親や保護者をサポートしたり、家族とはぐれた子供たちが避難先で家族と再会できる活動にも力を入れている。
親のレジリエンスと安定した暮らしのために投資すれば、子供に及ぶリスクを低下させられることは、多くの研究で明らかにされている。
このことが今、特に重要なのは、戦争のプレッシャーがドメスティックバイオレンス(DV)の急増につながることが、近年の内戦や紛争の研究から分かっているからだ。
家族で地下に身を隠し、わずかでも音を立てれば武装兵に気付かれて、家族もろとも命を失いかねない緊迫した状況では、平時は世界一穏やかだった親も、子供を守りたい一心で、子供に厳しく当たってしまう可能性がある。そうした状況に置かれている大人に、子供に手を上げずにストレスに対処する方法を教えるだけでも、子供の福祉に大きなインパクトを与えることができる。
今はユリアも、娘のソフィアの将来を楽観している。ユリアとソフィア、そしてユリアの両親は最近、ドイツのケルンにたどり着き、友人の家に滞在している。ソフィアは週に1回、地元の幼稚園にも通えるようになった。
ソフィアが戦争について話したがらないのは、異常なことではないとソーシャルワーカーは言う。
いずれ話す気になるかもしれない。今、何より大切なのは、ソフィアがまた自由に走り回って、笑えるようになったことなのだ。

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