ウクライナ「クリミア奪還作戦」の2つの狙い
8月9日、クリミア半島のロシア軍基地方面から爆発音と煙が…… SOCIAL MEDIAーREUTERS
<南部クリミア半島にあるロシア空軍基地が攻撃を受け、クリミアとウクライナ本土を結ぶ橋梁にも攻撃は及んだ。ウクライナ戦争は今、新たな展開を見せている>
ウクライナの当局者は、南部奪還を目指す反撃の第1段階と呼んだ。8月9日、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島にあるサキ空軍基地が攻撃を受け、8機以上の軍用機が破壊された。
ウクライナの反撃はクリミアとウクライナ本土を結ぶ橋梁にも及んだとみられる。橋への攻撃を機に、移住していたロシア人の大量脱出が始まった。
ドンバス地方の戦線が膠着するにつれ、ウクライナ側の関心は南部ヘルソン州に移っている。同地域は2月にプーチン大統領が本格的な侵攻を命じてからわずか数日でロシア軍に占領された。
ウクライナ政府はこの夏、ヘルソン占領を支えるロシアの補給網に打撃を与えるため、米政府に追加支援を求めてきた。
「全ての補給網の起点はクリミアだ」と、ウクライナ議会のサーシャ・ウスティノワ議員は言う。「今の私たちはヘルソンを取り戻し、ミコライウ州を維持すべく、南部での反撃に焦点を当てている」
今回の攻撃はウクライナ特殊部隊の手で実行されたと、ワシントン・ポスト紙は報じている。
この作戦をよく知るウクライナ当局者によれば、狙いは2つ──ヘルソンの占領軍を強化するロシアの補給線を断つことと、クリミアからウクライナへの長距離ミサイル攻撃を防ぐことだ。
ウクライナ空軍は、ロシア軍機9機を破壊したと発表している。あるウクライナ軍関係者は匿名を条件に、ロシアはサキ空軍基地に多用途戦闘機ミグ35と迎撃戦闘機ミグ31を配備していたと語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃直後のビデオ演説でウクライナの関与を明言しなかったものの、戦争終結までにクリミア半島奪回を果たすと宣言した。
ただし、ウクライナの当局者や議員によると、今すぐ奪還作戦に乗り出すわけではない。ここ数週間はヘルソンへのロシアの補給能力を弱体化させることに注力していたという。
この一帯をロシアに併合するための住民投票の計画は、ゲリラ戦を展開するパルチザンの激しい抵抗に遭っている。
ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員によれば、ウクライナ軍はヘルソン市南側の境界を形成するドニプロ(ドニエプル)川右岸にいるロシア軍の孤立化を図り、黒海の要衝スネーク島から撤退した6月末の再現を狙っている。
ウクライナ軍は既にヘルソン近郊の橋をいくつか爆破しており、7月には高機動ロケット砲システム(HIMARS)で戦略上重要なアントニフスキー橋を通行不能にした。