最新記事

日本社会

デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢

2022年8月11日(木)13時45分
黒川祥子(ノンフィクション作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

2人は息子の誕生を機に、夫の実家に身を寄せた。夫の収入だけでは、子どもを育てていけないからだ。気が進まない同居だった。

「狭い家なのに、義父は夫の兄弟や自分の友人を呼んで毎日、宴会をやるんです。お金は全部、自分持ちで。トイレだって毎夜、行列ですよ。商店とか自営業なら、まだわかるんです。お客さまですから。でも義父は会社員、意味がわかりませんでした」

嫁なので、準備を手伝わないといけないのも負担だった。真希さんは「こんなところで、育児なんかできない!」と痛切に思った。義父の義母への暴言や暴力も否応なく目に入る。

「お義父さんのお義母さんへの暴力を見せられるのも耐え難く、1日も早く、この家を出たいって、それしかありませんでした。子どもが3歳とか、もう少し、大きくなるまで我慢して......というのは、私には無理でした」

子どもの首が据わった頃、真希さんは子どもを連れて実家に戻った。二度と帰るつもりはなかった。

半年後に、何とか協議離婚が成立。養育費は月5万円と決めたが、払われたことはこれまでない。養育費の取り立てに強制力はないことに加え、元夫はすぐに再婚し、子どもができたと友人から聞いた真希さんは、しょうがないと諦めた。

ちなみに今は、2019年5月に民事執行法が改正され、「第三者からの情報取得手続」という新しい制度ができたことで、給与の差し押さえなどによる、養育費の取り立てが可能となっている。

キャバクラで綱渡りの生活

実家では、母親が寝たきりの状態だった。父と姉の3人暮らしに急遽、乳児と真希さんが加わったことで、不協和音が生じた。姉は美容師という激務ゆえ、夜はゆっくり休みたい。なのに、夜泣きで眠れないと訴え、父もイライラを隠さない。

「私は実家が天国ではなかったし、夫の実家よりはマシというだけ。早く出て行かないと、という思いはありましたが、3カ月の子どもを抱えていては身動きが取れなくて、結局、1年ぐらい実家にいて、近くのアパートに引っ越しました」

引っ越し費用は、1カ月約4万円の児童扶養手当を貯めて捻出した。しかし、働こうにも保育園には入れない。今から16年ほど前からすでに、保育園の待機児童問題が起きていたのだ。

「母子家庭だと言っても、ダメでした。保育園って働いていないと申し込めなくて、でも働き始めるには保育園に子どもを預けていないと働けない。これって、本当に矛盾しています」

最近でもよく聞かれる、母親たちの悲鳴だ。

「どうしようもないので、民間の24時間営業の託児所に入れて、働き始めました。短時間でお金を稼げるので、夜の仕事にしました。キャバクラです。時給は、2000円か2500円ぐらい。週4から週5はやっていました」

子どもを18時に保育園に預けて仕事に行き、お店の車で迎えに行くのは夜中の3時。自宅に戻り、3時半に就寝。朝7時には子どもが起きるので、朝食を作ったり、洗濯をしたり、子どもと遊んだりして過ごし、夕方に保育園という繰り返し。真希さんは睡眠時間3〜4時間という日々を過ごす。

「託児所で夜ご飯を食べるので、保育料は月10万円にもなって、家賃と光熱費が合わせて10万円。これだけで20万円が飛びます。食費に子どものオムツ代とかおもちゃ代とかもかかるので、大体、月に20万円から30万円ぐらいを稼いでいたと思います。ここに月に換算すると、4万円ほどの児童扶養手当が加わります」

夜の仕事とはいえ、ギリギリの暮らしだ。経済面だけでなく身体的にも、これでもつはずがない。3カ月後に、家庭保育室という認可保育所が使えるようになった。保育者の自宅で、複数の子どもを預かるもので、日中、ここに子どもを預けて、真希さんは睡眠時間を確保した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中