2050年には8億人の都市住民が水上生活に?──海面上昇と異常気象で急務の洪水対策

CITY OF WATER

2022年8月5日(金)15時10分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220802p18_SSG_04.jpg

21年に洪水に見舞われたドイツの都市オイスキルヒェン ABDULHAMID HOSBASーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

12年12月、ニューヨーク市は当時のマイケル・ブルームバーグ市長の下、有力な気候科学者や社会科学者を集めて気候に関する未来予測に着手した。研究者たちはこの半年後、未来のサンディ級の気象災害に対応するための包括的なプランをまとめた445ページの報告書を発表した(15年にはデブラシオが332ページの報告書を発表し、規模を縮小したプランを打ち出している)。

この報告書に基づいて、ニューヨークは200億ドルを超す予算を拠出して気象災害対策に乗り出した。同市が気象災害に対するレジリエンスに関して全米の先進都市と見なされているのは、この計画が理由だ。

最近、コニー・アイランドの15階建ての建物の屋上で、シンダーブランドとフセインに話を聞いた。わずか100メートルほど先に大西洋を見下ろせるこの屋上には、数台の新しい非常用発電機がコンテナに収めて設置されている。2人の話によれば、この非常用発電機の設置は、総額8700万ドルを費やした設備改修の1つにすぎない。

ここコニー・アイランド・ハウジズは、5棟の建物で構成される大型の公営住宅だ。サンディでとりわけ激しい打撃を被った海岸沿いに、レンガ造りのパッとしない高層建築が立っている──ところがこの住宅は、未来の気象災害から公営住宅の住人を守る取り組みのモデルケースになり得ると、市当局者は胸を張る。

「それぞれの建物の屋上に予備の発電機を設置した」と、シンダーブランドは説明する。「ハリケーン対策というだけでなく、このおかげで夏の電力不足のときにも停電を回避できる」

この公営住宅の敷地は、洪水や大雨のときに水を吸収する素材で舗装し直された。屋根は反射するために白く塗られたり、ルーフガーデンが設置されたりした。ボイラーを地下室に置くのもやめ、新たにボイラー棟(高さ20メートル近い頑丈な建物だ)が建てられた。「ニューヨークは既に出来上がっている町だ」と、シンダーブランドは説明する。

「ゼロから造り直すわけにはいかないから、既存の建物をどう改修すべきかを考える必要がある。築50年、60年、70年のレンガ造りの建物がある。水害対策など全く意識せずに建てられた建物だ。気象災害が起きたとき、そうした建物のインフラや住人、住居をどうやって守るかを考えなくてはならない」

サーフ・アベニュー沿いに立つ18階建てのユニティ・タワーズは、192戸で構成される巨大公営住宅だ。ここでは、洪水時に水が流れ込むのを防ぐために、建物の入り口を高くする改修工事が行われたと、シンダーブランドは言う。このほかにもサーフ・アベニューの4区画にわたり、水はけを改善するために道路や歩道のかさ上げ工事が実施された。

ユニティ・タワーズでは、水害に強い構造の2階建ての別棟を建設して、発電機とボイラーを収容するようにもした。加えて、敷地の10カ所に50個の可動式の止水壁を用意し、暴風雨が近づいたらすぐに設置できるようにしてある。

「もし明日、(サンディのようなハリケーンが襲来しても)ここでは何の問題もないだろう」と、フセインは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中