最新記事

疑惑

「史上最長の死刑」死刑囚が3時間苦悶、遺体の肉は裂け...人権団体が糾弾

2022年8月22日(月)16時24分
青葉やまと

「通常から外れたことは何も起きなかった」と当局は強調するが...... CBS42-YouTube

<密室で行われる残酷な処刑がアメリカで問題に。矯正局は、腕の肉を切り込んで静脈を探した疑いがもたれている>

米アラバマ州の刑務所にて7月、収監されていた死刑囚が処刑された。執行から2週間以上が経過した8月中旬になって、刑務所側の不手際により刑の執行準備に3時間以上を要していたことが発覚している。

この間、静脈注射のため無数の針を刺され肉は裂け、死刑囚は苦悶の時間を過ごしたと指摘されている。アメリカでは24の州が死刑を認めているが、以前から密室での実行が問題視されている。

死刑はアラバマ州ジェファーソン郡にて7月28日の夜、致死薬注射により実行された。米CNNが報じたところによると、死刑囚はジョー・ネイサン・ジェームズ・ジュニアという50歳の男性であり、1994年に交際相手であった当時26歳の女性を射殺した容疑がかけられていた。女性は2児の母だった。

1996年にジェファーソン郡裁判所で行われた初審を皮切りに、判決は二転三転する。2020年になって連邦控訴裁判所が下級審による死刑判決を支持し、刑が確定した。

「異常はなかった」とする矯正局だが、遺体は血まみれ

刑を執行したアラバマ州矯正局は、通常通りの手順で完了したと発表している。しかし、立ち会いを許されたメディアによると、明らかに不審な点があったようだ。午後6時に執行予定と案内されていたが、実際に現地へ通されたときには午後9時を回っていたという。

ずれ込んだ3時間のあいだ、ジェームズ受刑者は死の瀬戸際に置かれ、精神的苦痛に苛まれていたと考えられている。それに加え、肉体的苦痛も生じていたようだ。医師らとともに処刑後の遺体の検分を許された米アトランティック誌の記者は、その凄惨な様子を克明に記している。

遺体は安置所に置かれ、被せられた布は血まみれになっていたという。薬物注入に使う静脈を探すのに手こずり、3時間のあいだ身体中を針で刺されていた可能性があるようだ。記者が遺体に臨んだのは処刑から数日後であり、通常ならばむくみによって針の痕跡を探すのは難しくなっているはずだ。

だが、「通常から外れたことは何も起きなかった」と強調する矯正局の説明に反し、遺体は明らかに異常を物語っていたという。

「曲げられるところはすべて刺されていた」

記者は注射痕がみつかりにくいとの予見に反し、「しかしジェームズをみた私の第一印象として、両手と両手首のうち、曲げたり伸ばしたりできる箇所がすべて、針で刺されて膨れあがっていた」と述べている。

片腕にはほぼ平行に走る2本の裂傷があり、「州は何も異常はなかったと説明しているが、弁護士が処遇に抗議したり活動家が監視したりできない閉ざされたドアの向こう側で、ジェームズはストレッチャーに縛り付けられ、手酷いことが行われていたことを物語っていた」と同誌は述べる。

遺体の検分に立ち会った米エモリー大学の麻酔学の専門家は、薬物注射のために静脈を露出する目的で腕部を切り裂いた可能性があると指摘している。通常の医療であれば、現代では行わない手法だという。強い痛みを伴うが、局所麻酔が使用されなかったおそれもあるようだ。

米総合病院のメイヨー・クリニックの病理医は、ジェームズ死刑囚が繰り返す針の痛みに耐えかね、「自身の肉を拘束具で引き裂くほど強くもがいた」可能性もあると指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中