「俺のことわかる?」自分の彼女を殺した犯人に面会に行った男性が、知りたかったこと
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<「メディアが報じない事件のその後」を扱うYouTube「日影のこえ」。チャンネルでナレーションを担当する男性は、2015年のある殺人事件の関係者だった>
「日影のこえ」というYouTubeチャンネルを知ったきっかけは、『売春島――「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)など優秀な著作を発表してきたノンフィクションライター、高木瑞穂氏のツイッターだった。
映像作家、我妻憲一郎主幹のチャンネルであり、高木氏も全面的に関与している「日影のこえ」は、「メディアが報じない事件のその後」をテーマに、事件の当事者が語る短編ドキュメンタリー。さまざまな事件の見えにくい部分が明かされていくので、私もその取材姿勢には強く共感していた。
『日影のこえ――メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実』(高木瑞穂、YouTube「日陰のこえ」取材班・著、鉄人社)は、同チャンネルで取り上げられた9種の重大事件の内容を、さらに深掘りして書籍化したものだ。発行意図について、高木氏は次のように述べている。
テレビ、新聞、ネットニュース。あらゆる情報や"声なき声"が流れては消えていく。しかし、この世で実際に起きていることは、大手メディアが報じる"大きな声"だけではない。"小さな声"かもしれないが、しっかりと伝え、記録に残したい。2020年10月、こうしてユーチューブ『日影のこえ』は立ち上がった。ちなみに、声をひらがなにしたのは、声になってない"こえ"を取り上げる、という思いからだ。(「はじめに 日の目を見ることがなかった声なき声を」より)
さらに言えば、「日影のこえ」というチャンネル名自体も"あるきっかけ"に基づいて生まれたそうだ。「社会で日の目を見ない問題はたくさんあるけど、その中にも大事なことがある。それを伝えることは大きな意義があると思う。そんな"声"を届けるチャンネルを作りたい」という高木氏の意見に対し、ある人がこう反応したのだ。
「ならチャンネル名は"日影のこえ"でどうですか? 自分は事件以来、ずっと"日影"で過ごしてきましたから」(「はじめに 日の目を見ることがなかった声なき声を」より)
発言の主は、このチャンネルでナレーションを担当している宇津木泰蔵氏。当初は「Tゾウ」という名で紹介され、チャンネルに登場していた彼は、2015年に起きた「中野劇団員殺人事件」で恋人を殺害された人物である。
事件は長らく未解決で、当初、捜査は難航したそうだ。そんななか宇津木氏は、殺害された恋人との共通の夢だった役者の道を断念し、「犯人逮捕や事件の真相を知るために生きていこう」と決断、それを実践していた。
一方の高木氏は、そんな彼に寄り添うなかで自身の価値観が変わったことを認めている。
以前は、殺人事件が発生すれば事件記者の本分を正当化するため真っ先に現場入りし、被害者遺族の証言や被害者の顔写真などスクープを追い求めていた。だが、彼と過ごした歳月がその価値を見出せなくしていた。つまり、目の前で苦しみ続ける泰蔵を、彼のように事件によって狂ってしまった人たちの人生を伝えることこそに、ある種の使命感を覚えるようになったのである。(「はじめに 日の目を見ることがなかった声なき声を」より)